■天然氷は、そんなにスゴいの?
昨年よりブーム到来中の、かき氷。
中でも、天然氷を使ったかき氷の人気が高いようです。
天然で冷やすのも、家の冷凍庫で冷やすのも、水を凍らせることには変わりはないはず。
それなのに、天然氷のかき氷はお値段もちょっぴりお高めです。
天然氷は、何がそんなにスゴいのでしょうか?
今日は、天然氷の人気のワケを、科学的に納得してもらいたいと思います!
■天然氷かき氷の特徴
まず、天然氷かき氷が、通常の氷よりも良いと言われているポイントを2つ挙げます。
1.頭がキーンとしにくい
2.食感がふわふわしている
このため、この2つの理由を科学的に説明することにします!
■ポイント1.実は「温度」が違った!!
天然氷は、氷室と呼ばれる貯蔵庫に山からの湧き水を溜めて、冬の間に冷凍させることで作られます。
冷凍のスピードはとてもゆっくり。
一方、家の冷凍庫で水を凍らせる場合は、マイナス18℃前後の低い温度で、急速に冷却します。
この過程で変わってくるのが、“水に含まれる不純物”!
通常、水の中にはミネラルや空気といった“水(H2O)以外の物質=不純物”が含まれています。
水は、水分子同士がかっちりと結合することで氷になってゆきますが、その過程でそれらの不純物を押し出す性質があります。
天然氷は、冷凍のスピードがゆっくりであるため、押し出しを十分に行う事が出来ます。
しかし、家の冷凍庫で急速に凍らせて作る氷は、押し出しにあまり時間をかけられないため、不純物が残ってしまうのです。
不純物が残ると何が起こるかというと、、
通常は0度であるはずの“水が氷になる温度”が下がります!(いわゆる、「凝固点降下」)。
これは裏を返せば、“氷が溶けて水になる温度も下がる”ということです。
つまり、氷点下でも溶け始めうるので、通常より溶けやすくなるのです。
天然氷の氷は、不純物が少ないため、氷が溶けて水になる温度は0度に近い状態です。
このため、かき氷として氷を削る前に、マイナス10℃からマイナス4℃くらいまで、少し温める事が出来ます。
ところが、急速に凍らせた不純物の多い氷は、マイナス10℃くらいで溶け始めてしまうので、温めてから削る事が出来ません。
こうした理由により、天然氷のかき氷は”冷たすぎない状態”で提供する事ができる一方で、家の冷凍庫の氷のかき氷は”チョー冷たいまま”で出さざるを得ないのです。
■ポイント2.物理的に頭がキーンとしにくかった!!
ここまでで、天然氷と冷凍庫の氷は“かき氷として提供するときの温度が違う”ことが分かりました。
でも、氷は同じ氷です。冷たい事に変わりはなく、冷たければ頭はキーンとしそうです。
どうして、天然氷は、頭がキーンとしにくいのでしょうか。
まず、頭がキーンとするしくみについてミクロなレベルで説明します。
冷たいものを食べて頭がキーンとする現象、通称「アイスクリーム頭痛」は、「冷たい」の刺激を、脳が「痛い」と感じることが原因の一つだとされています。
そのメカニズムを簡単に説明しますと、
1.冷たい刺激がやってくる
2.「温度が17度以下の刺激」をキャッチするセンサー(タンパク質)が働く
3.そのセンサーが「痛み」のシグナルを脳に送る
このようになります。
「冷たい刺激」は、このセンサーを介して「痛みの刺激」に変換されるのですね。
このため、「頭がキーンとしにくい」という現象は、「このメカニズムが作動しにくい」という現象に置き換えられます。
不純物の少ない天然氷は、水分子同士がかっちり結合しているため、固い氷になります。
固い氷であれば、とても細かく削る事が出来ます。
そして、削って盛りつける際に空気が含まれるため、いわゆる“ふわふわ”なかき氷が出来上がります。
これが天然氷からふわふわ食感を作れる理由です。
さらに、削りが細かいということは表面積も多いので、
「温かい舌」に触れる面積が増え、口の中で溶けるスピードも早くなります。
天然氷かき氷は温度が高めであることに加え、溶けるスピードも早いため、「冷たい刺激」を受け取ってる時間が短くなるのです。
このため、削りがあまり細かくなく、温度も約マイナス10℃前後である冷凍庫の氷のかき氷は、冷たい刺激をキャッチするセンサーを作動させやすいのに対し、天然氷のかき氷は、そのセンサーが作動しにくくなると考えられます。つまり、頭がキーンとしにくいのです!
以上が、天然氷が頭がキーンとしにくく、ふわふわな食感であると言われている科学的な考察です。
このため、原理的には、不純物を完全除去した氷を冷凍庫で冷やし、少し温めたのちに細かく削れば、頭がキーンとしないふわふわなかき氷を再現できることになります。しかし、それは中々容易なことではありません。
天然氷のスゴさは、科学的にも理にかなっている美味しさを生み出す氷を、自然の力で作れるところにあったのですね♪
(※冷刺激を受け取るタンパク質(TRPA1)の活性メカニズムや冷刺激による活動電位発生の閾値等はまだ解明されていないため不十分な点もあると思いますが、ご容赦ください!)
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