だしを取る作業というのは、きちんとやろうとすると時間がかかりますよね。合わせだしを除いて時間がかかるものといえば「しいたけ」。
干ししいたけでだしを取ろうとすると、パッケージには「冷水に5時間につけて戻す」などと書かれており、そんなことやってられるかと即お湯に突っ込みたくなります。
この干ししいたけの戻し、お湯ではダメなんでしょうか。そして、時間も1時間とかではいけないのでしょうか。干ししいたけのグアニル酸量について調べた実験からご紹介します。
1. 水温は5℃がもっともグアニル酸量が多くなる
実はしいたけのグアニル酸は「戻す」だけではさほど強く出ません。その後の加熱の過程が必要になります。
実験では5℃・24℃・40℃・60℃の水温で5時間戻した干ししいたけ(香信)のグアニル酸抽出量が調べられました。結果、加熱なしの条件下ではどの水温もグアニル酸抽出量に大きな違いは見られませんでした。
差が生じたのは65℃で20分加熱した後。その平均数値は干ししいたけ100gに大して以下のとおりになっています。
・5℃:209.8mg
・25℃:125mg
・40℃:65.7mg
・60℃:69.2mg
5℃がもっとも高く、50℃や60℃で戻したしいたけと比べると3倍以上のグアニル酸量。ここまで違いが出ると、さすがにお湯で戻そうという気にはなれませんね。ちなみに40℃以上の温度では、戻しただけのものとその後に加熱したもののグアニル酸抽出量に差はほとんどなかったようです。
2. 長く抽出するほどグアニル酸量は増える
戻し時間については、1時間・3時間・5時間・一晩でのグアニル酸抽出量が調べられました。
水温の結果と同様、加熱なしの条件下ではどの時間においてもグアニル酸抽出量にさほど差はなかったそう。しかしここでも65℃・20分の加熱後に大きな違いが発生します。
その結果は以下のとおり。水温同様、干ししいたけ100gに対する平均値です。
・1時間:97.1mg
・3時間:152.5mg
・5時間:209.8mg
・一晩:226.6mg
抽出時間が長くなるにつれグアニル酸量が多くなっています。ただし、5時間と一晩の違いは有意差と言えるものではありませんでした。
時間がないときに効率よく戻すには5時間がベストですが、夜に戻し始めて朝調理する、朝に戻し始めて夜の帰宅後に調理する……といった日常生活に当てはめると、長い時間浸けておくのも良さそうですね。
ただ、1時間と5時間では約2倍の差となっているので、手間を省いて抽出時間を短くするのは非常にもったいないと言えます。
なぜ「5℃の水で5時間」なのか
この理由はグアニル酸の生成作用を持つ「リボ核酸分解酵素」と分解作用を持つ「ヌクレオチド分解酵素」という2種類の酵素の働きが関係しています。グアニル酸はリボ核酸分解酵素によって増加し、ヌクレオチド分解酵素によって減少します。
リボ核酸分解酵素は65℃〜70℃の水温でもっとも活性化します。加熱のあり・なしでグアニル酸量が大きく増えるのはこのためです。対して、ヌクレオチド分解酵素が最大活性するのは40℃〜60℃。
5℃の水温が低い状態では抽出されたグアニル酸が分解されずに済むのですが、40℃に近い温度で戻すと、リボ核酸分解酵素・グアニル酸が抽出されていてもヌクレオチド分解酵素によって分解されてしまうために、グアニル酸抽出量が少ない状態となってしまうんです。
そして、リボ核酸分解酵素は低温の水につけることで、干ししいたけ中で量が増加します。干ししいたけの中で増加したリボ核酸分解酵素が溶解するのに1時間や3時間では時間が足りず、5時間以上という時間を要するんですね。
ちなみにだしを取るのに干ししいたけが使われるのは、乾燥させることで細胞が壊れ、旨味成分が出やすくなるためです。
実験によるとしいたけの品種でもグアニル酸抽出量が変わり、肉厚の薄い干ししいたけほどグアニル酸量が多い可能性も示されています。これも上述の「リボ核酸分解酵素」といった成分が生成・流出しやすいからと考えられています。
今回の実験で使われたのは香信という品種の干ししいたけですが、厚みのあるしいたけではもっと長い時間浸けておく必要がありそうです。
結構手間な干ししいたけの戻し。ですが、時間をかけた分旨味が強く出てくれるのであれば、明日の美味しいご飯のために今のうちに抽出を始めても良いかもしれませんね。
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