日本人は旨味を感じる力が強い
和食から切り離せないもののひとつは、だしです。だしの文化は、人の味覚の5つ目の基本味である「旨味」の発見にも繋がりました。多くの日本人はかつおだしや昆布だしの繊細な旨味を堪能できる味覚を持っています。以前味博士が行った実験でも、外国人よりも日本人の方が旨味を感じる力が強いことが明らかになりました。
しかし、もちろん日本に生まれれば無条件で旨味を感じる力が強くなるわけではなく、幼少期の食経験などが大きく影響します。旨味をきちんと感じられる舌を育むには、いつ頃から鍛えていけばよいのでしょうか。
離乳前の経験が影響大
人の感じるおいしさは4つに分けられると考えられています。それは、1)体に必要なものが得られた時のおいしさ、2)文化的に育まれたおいしさ、3)情報によるおいしさ、4)化学物質としての刺激のおいしさ、です。このうち2や3は、人の食経験や知識に大きく影響され個人差が大きいほか、ある程度高度な認知が必要とされます。このため、赤ちゃんのようなまだ認知機能が発達していない状態では、1のおいしさをもとに好みが形成されていくと考えられます。
実験動物であるマウスも同じように、1のおいしさをもとに食べ物の好みが決まると考えられています。そこで、マウスを使って実験を行うことで、幼少期の食経験がその後の好みにどのように影響するかを調べることができると言えるでしょう。
京都大学大学院農学研究科の研究者らは、マウスにかつおだしを含む餌を与え、幼少期の食体験の食べ物の好みへの影響を調べました[*1]。
まずはじめの実験では、子どもを産む5日前の母親マウスにかつおだしまたはカゼイン(牛乳などに含まれるたんぱく質)を含むエサを与えました。出産後、生まれたマウスに同じエサを与え続け49週間育てました。それからかつおだしと水を並べて、どちらがより多く飲まれるかを調べました。その結果、生前からかつおだしエサを食べていたマウスのほうが、かつおだしを選びやすい傾向にあることがわかりました。
次に、幼少期のどの時点でかつおだしを食べることがその後の好みに影響するかを調べるために、生後ずっとカゼインエサを与えられるマウス、離乳前(生後21週間)までかつおだしエサ、離乳後はカゼインエサを与えられるマウス、離乳前までカゼインエサ、離乳後にかつおだしエサを与えられるマウスの3種類に分けてマウスを育て、同様にかつおだしとコーン油(マウスの好物)を選ばせる実験を行いました。その結果、離乳前までかつおだしエサを食べていたマウスのほうが、かつおだしを選び続けることがわかりました。
この実験から、離乳前にかつおだしの味に触れることが、その後のかつおだしへの好みを形成しやすいことが明らかに。次に、私たちが離乳前の子どもに旨味の味を覚えさせるにはどのようにしたらよいかを見てみましょう。
旨味に慣れさせるためには
(1)お腹の中にいる時の食生活を気をつける
子どもの味覚を鍛えるためには、お腹の中にいる頃から対策することができます。それは母親がだしをなるべく摂取するようにすること。母親が食べたものによって羊水の中の成分が変化することが分かっています。
たとえば、甘味物質を母親が食べると胎児が羊水を飲む回数が増え、苦味物質を母親が食べると胎児が羊水を飲む回数が減ることが知られています[*2]。羊水中の旨味成分であるグルタミン酸自体の量はあまり変わらないようですが、かつおだしや昆布だしの風味の成分が羊水に移行し、それを胎児が飲むことによって、だしや旨味への好ましさが作られやすくなる可能性はあるでしょう。
(2)母乳をきちんと飲ませる
また、生まれた後にも旨味に慣れさせるチャンスがあります。それは母乳を飲ませることです。母乳にはそもそも、旨味成分であるグルタミン酸やイノシン酸が多く含まれています[*2]。さらに、母乳にも母親が食事で得た成分が反映されやすいことが知られています。
日本人がだしのみならずお米や醤油、味噌のようなものを好む味覚を形成される要因のひとつは、和食を食べる母親の母乳からそれらの成分を経験していることなのです。
このように、子どもが生まれる前から離乳前までの間に母親が和食を積極的に食べることは、子どもの和食好みの味覚の形成につながると言えそうです。これから出産を予定されている方やその配偶者の方は、このことを頭の片隅に置いておいてもよいかもしれません!
参考:
*1「鰹だし」風味の食餌の初期経験が後の嗜好性に及ぼす影響
*2味覚の形成と次世代への継承ーだしの文化とアミノ酸の味ー
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