塩分に殺されないために。人類と塩分過多の戦いは続く。

2019年1月に、厚生労働省の定める塩分摂取量目安がさらに引き下げられることが発表されました。

厚労省「日本人の食事摂取基準」*1 の2015年度版によると、18歳以上男性は8.0g/日未満、女性は7.0g/日未満でしたが、2020年策定予定の基準では、2015年からさらに0.5g引き下げられ 、成人男性は7.5g未満、女性は6.5g未満が目標数値となります。

本来は、体の細胞の維持に必要不可欠な塩分ですが、現代では目の敵。塩分を摂りすぎると、高血圧になりやすく、さらに脳卒中や心疾患などの生活習慣病や胃がんのリスクが高まるということで減塩が推奨されています。

推奨されているとはいえ、なかなか自分の意志で薄味にするのは気合が必要。
現代のテクノロジーをもって減塩を目指すべく、塩分摂取過多と戦っている研究をピックアップしました。すべて2019年の発表の最新研究です。

【1】醤油の香りをかぐことで減塩

日本バーチャルリアリティ学会の発表した論文によると、醤油の香りをかぎながら飲料を飲むと、塩味がより強く感じることができるとのこと。ポイントは、息を吸うときではなく、息を吐く際の鼻腔経路で醤油香を感じさせること。呼吸と連動する必要があります。
呼吸と連動した醤油の匂い提示による塩味増強効果

【2】塩化カリウムや塩化カルシウムで置き換える

減塩のために塩化ナトリウム(NaCl)を減らし、塩化カリウム(KCl)や塩化カルシウム(CaCl2)を配合するという手法があります。KClやCaCl2は血圧に影響しないため、有効な手でしたが、どうしても変な味になってしまっていました。今回、ワシントン州立大学の味覚センサーの研究で、NaCl 96.4%、KCl 1.6%、CaCl2 2.0%という黄金比率が発見されました。この比率だと、塩化ナトリウム100%の味と遜色ないそう。
Identification of a Salt Blend: Application of the Electronic Tongue, Consumer Evaluation, and Mixture Design Methodology

【3】味覚を変えられる手袋を装着する


明治大学では、金属製の食器で味覚の電気信号を受け取れる手袋型のデバイスを開発しました。手袋型のデバイスを着用することで、人差し指部に取り付けられている電極からスプーンやフォーク、コップ等の金属製の食器を介して、舌に電気味覚を付与します。飲食物に味覚を付加することが可能という夢のようなデバイスです。
電気味覚で感じられる味覚には塩分も含まれます。この手袋があれば簡単減塩生活ができるかも!
総合数理学部 宮下芳明研究室 「食べ物の味を変える手袋」を開発

以上、塩分摂取過多と戦えそうな最新研究3選でした。
実は、世界保健機関(WHO)の基準でいうと1日の塩分摂取量の目安はなんと5g。海に囲まれ、歴史的に塩分の含む食事を摂ってきた日本人とはいえ、世界基準にはまだまだです。まだまだ塩分との戦いは続きそうですね。


*1 厚生労働省:日本人の食事摂取基準

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