人類の祖先を想像したとき、よく使われる構図としてマンモス狩りがあります。毛皮を来た原始人が集団で槍を使ってマンモスを狩猟している様子です。
ダイナミックでロマンがありますが、残念ながら、今やそのイメージは正しくないことが分かっています。
人類はスカベンジャー(腐肉食)として肉食をスタートしたという学説に切り替わっているのです。腐肉食とは、肉食動物が狩りをして得た獲物の食べ残しを食べる行為。思わずシミたれた様子を想像してしまいますが、牙の大きな肉食動物が器用に骨についた肉まで捌ききれなかったおかげで、 十分な肉が残されていたと言われています。
貧弱な石器で大きな動物に向かっていく危険を犯すよりも、ずっと効率的だったでしょう。樹上で暮らしていた人類が地上に降りて、獰猛な動物たちが闊歩する生き残る知恵でした。
高タンパク・高カロリーの肉を食料として用いることのできた人類は、様々な進化を遂げました。
人類の脳が大きくなったのも、栄養価の高い肉を食べることができたから。大きな脳を持つには、たくさんのタンパク質を必要とするからです。
肉食することにより、母乳の栄養価が高まり、赤ちゃんが早く離乳することが可能になったとも言われています。早く離乳すると子育ての頻度を増やすことができ人類繁栄につながったのです。
ただ、ここで議論が分かれていたのが、消極的な腐肉食だったのか、積極的な対峙性屍肉食だったのかです。前者は、肉食動物の獲物の残りやその骨髄を食事に利用していたもの。後者は、肉食動物を力で追い払って獲物を横取りすること。
現在では積極的な対峙性屍肉食の方が支持を受けています。
さらに、現生の類人猿のチンパンジーではそういった屍食が見られないことから対峙性屍肉食が人類の言語や協力関係の進化に重要であるとされてきました。
ところが今回、京都大学の中村美知夫准教授らの研究グループが野生チンパンジーがヒョウの獲物を手 に入れて食べるところを観察しました。
チンパンジーは小型の哺乳類を捕食しますし、これまでチンパンジーがヒョウから獲物を横取りする可能性は示唆されていましたが、証拠はこれまで発見されていなかったため、世界初の発表となります。
観察地は研究グループが野生チンパンジーの研究を続けてきたタン ザニアのマハレ山塊国立公園。
対象チンパンジーがブルーダイカーという小型のレイヨウを食べていました。チンパンジーが手に入れた時にはすでに喉に牙の跡があって血が流れており、ヒョウが殺した直後のものでした。
その近くでヒョウの姿が目撃されたうえ、チンパンジーが頻繁に近くの藪に向か って警戒声を発していたことら、獲物を殺した ヒョウがしばらくの間近くに居続けたと考えられます。
このことから、洗練された武器も持たないチンパンジーでも、肉食獣から獲物を横取りすることができることがわかりました。人類よりも前の進化系統から、対峙性屍肉食が行われていたのです。
ここ最近の人類の進化の定説となっていた対峙性屍肉食は考え直されることになりそうです。私達の祖先がどのように進化し繁栄していったのか。まだまだわからないから面白いですね。