ご飯とスープ、メインをしっかり食べて、もうお腹いっぱい。そう自覚しているのに何故かデザートを食べてしまう。ピザを4枚食べてもうお腹いっぱい。これ以上食べると苦しくなるのは分かっているのに、なぜか5枚目に手が伸びてしまう。
そんな経験をしたことはないでしょうか。
どんなにお腹が満たされていても、必要も無いのに食べてしまう、過食のメカニズムについての論文が神経科学系の学術誌「ニューロン」に掲載されました。
ノースカロライナ大学のアンドリュー・ハーダウェイ博士は食事に関する神経生物学について研究しています。今回の論文は、動物が快楽的な食事を摂る際、どんな神経系の働きが関連しているかを実験した成果です。
動物が生きるためには食事をする必要があります。身体活動を維持するために十分なカロリーを得るように脳は指令を出します。ですが、必要十分な食事を摂ったあと、さらに快楽のためにおいしいものを欲する場合、神経系はどう働くのでしょうか。
これまでの研究で、快楽のための食事には、タンパク質の一種である、ノシセプチンという神経系の伝達分子が関与していることがすでに分かっていました。
ハーダウェイ博士らの実験では、快楽摂食における役割を研究するために、ノシセプチンと一緒に蛍光分子を生産するようにマウスを遺伝子操作しました。この蛍光分子のおかげでタンパク質が移動する経路が可視化されました。マウスに普通の実験用飼料ではなく、快楽的なおいしい餌を与えると、脳内にある複数のノシセプチン回路のうち、扁桃体の中心核にある特定の回路が反応していました。
続いての実験では、この回路内のノシセプチン産生ニューロンの半分を遺伝的に除去しました。するとマウスは高カロリーなおいしい食事を食べることにあまり興味を持たなくなったのです。つまり、特定のニューロンを奪うと快楽的な食事の消費量が減ることがわかったのです。
この研究が進めば、快楽的な食事を避け、必要な食事のみを摂るような肥満の治療方法が確立できるかもしれません。
肥満、食事に関する研究はたいてい、生命活動のために必要な摂食に焦点を合わせています。今回の研究は、快楽的な食事、つまり必要もないのに摂る食事にフォーカスした点が面白いところです。節制して摂取カロリーを抑える我慢のダイエットはなかなか難しいものです。余分な食事への欲求自体を無くすことができるなら、より根本的で現実的な肥満治療への道が開けるもしれません。
参考:
Scientists Discover Why It’s So Hard to Stop Eating Even When Our Bodies Are Full
Central Amygdala Prepronociceptin-Expressing Neurons Mediate Palatable Food Consumption and Reward