フランスにミシュランがあるように、イタリアにはガンベロ・ロッソがあります。このガンベロ・ロッソが開催するアカデミーには、偉大なシェフと科学者がコラボレーションをする「Chef Tech Pro」という分野があります。
近年、科学者が料理の分野に進出する機会が増えています。科学者が研究室や学界の中で独占してきた技術を、キッチンで応用できる時代になったんですね。
低温や分圧の調理、高速遠心分離技術、エバポレーターの装置、急速解凍など、さまざまな技術がキッチンにも登場してきました。
その中でも、超音波を専門に研究するグイド・モーリは、超音波を利用して肉、ワイン、油の品質の向上、よりおいしい調理法などにこだわってきました。グイド・モーリは、超音波によって肉が柔らかくなることを改めて報告しています。
キッチンにおける超音波とは?
超音波とは、人間の耳に聞こえる領域を超えた音波のことです。この超音波が、エネルギーを生産することができる手段として、シェフたちにも注目されてきました。ガス台で調理をしたり、電子レンジで液体を温めたりするのと同じエネルギーなのです。
これまで超音波は、洗浄作業の分野での使用が目立ちました。機械の歯の洗浄、医療器具の洗浄などなど。
しかし今回は、超音波を食材に利用するという研究です。
超音波と肉の関係
タンパク質や炭水化物は、さまざまな構造を有する高分子の形で自然の中に存在しています。
タンパク質の変性を利用し、いかにして肉を軟らかくするかというのが超音波を使った調理のテーマでした。
「超音波は軟骨や脂肪に対してよりもタンパク質に対してより優先的に機能するという性質がある」。
これは、研究の前にモーリ教授が立てた仮説です。この性質が、肉を軟らかくするプロセスに大きな影響を及ぼしているのではないかと教授は考えたのです。
さまざまな超音波照射時間と肉の種類を使用した実験
そして、実際に牛肉・鶏肉・豚肉・羊だけではなくイカなどのたんぱく質を含む食材、肉の部位もフィレ、すね肉やリブを使用して、「WAVECO」というキッチン用に開発された機械で超音波の処理がなされました。軟骨や脂肪の割合が異なる肉と部位で、研究を実施したわけです。
27℃の水の中に漬けられた様々な肉は、超音波の照射時間も、20-40-60-80-90分と細かく分けて実験を行いました。
その後、それぞれ超音波の照射時間が異なる肉は、均一の調理法で料理されました。
結果、超音波による処理は部分的なたんぱく質の変性を引き起こすことが証明されたのです。脂肪に対しては超音波の効果はあまり見られなかったものの、脂肪分が少ない肉は通常よりも非常に柔らかくなるという結果がでました。
日本の霜降り肉には必要ないテクニックだけれど…
モーリ教授は、脂肪が肉全体に分散してそのために非常に柔らかい霜降り肉には、この調理法は意味がないと語っています。
安価な肉や古い肉は、調理すると非常に固くなってしまうことが多いですよね。こうした肉に対して、超音波により調理をすることは「まずい肉もうまくなる」可能性があると示唆しているんです。
モーリ教授は、将来的にこの技術が精肉業界に用いられて原材料のコストが削減されることを望んでいるのだそう。
消費者としても、そうなったら嬉しいですね。
参考:
Protein folding and unfolding in microseconds to nanoseconds by experiment and simulation