音楽でワインの味はホントに変わる?
植物にモーツァルトを聴かせるとよく育つだとか、528ヘルツの音を聴けば傷ついたDNAが修復されるといった「音楽を聴かせると○○」論を、あなたも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。食べ物や飲み物も例外ではなく、聴かせるジャンルがロックかクラシックかによっても味が異なるといった話が見受けられます。
本当か嘘かよく分からない話が並ぶ中、ワインに”ある条件で”音楽を聴かせると本当に味が変わることを分子レベルで証明した研究があります!一体どんな条件で音楽を聴かせると味が変わるのでしょうか。
音楽を振動に変換する「ボディソニック」
音楽によって人の気分が変わり味の感じ方が変化することはあり得ますが、食品そのものは耳や感性を持たないので、食品自体が音楽を感じるようなことはありません。しかし音楽や音とは空気の振動です。振動は物理的な現象であるため、食品に影響を与えることは可能です。こうした点に注目し、ある研究者らは「音楽の振動がワインの成熟に影響を与えることがあるのではないか?」と考えました。
(画像:参考文献「音楽振動の酒類への利用」より)
しかし、ライブハウスやクラブのような空間で大音量で音楽を聴く場合に、低音を腹で感じることはあっても、通常の空間で音楽を聴く場合には振動は感じられません。そこで役立つのが「ボディソニック」(トランデューサ)という装置です。
こちらは壁や天井など振動できる場所に取り付けて使用するもので、音楽の電気信号を機械的な振動に変換して壁や天井全体で振動つきで音楽を再生することができる装置です。このボディソニックを、ワインの樽に取り付けて音楽を再生して振動を与えながら熟成させれば、つまり”ボディソニックで音楽をワインに聴かせれば”、振動の影響でワインの味が変わる可能性があります。
分子や酵母への影響が味を変えた!?
山梨県工業技術センターのワインセンターにて、200リットルのワイン樽にボディソニックを取り付けて音楽を聴かせるものと、何も取り付けないものを用意し、12日間の醸造を行う実験が行われました。なお、この時聴かせた音楽とは「ワインの子守唄」というタイトルの長さ30分のオリジナル曲です。その結果、主に3つの効果があることがわかりました。
(1)水分子の状態が変化する
1つ目は、水分子の塊が小さくなることです。水分子(H2O)は通常、5つ以上の分子が結びついた状態で存在していることが多いといいます。ボディソニックありなしの2つの条件で醸造したワインについて、NMRという装置を用いて水分子の状態を調べたところ、ボディソニックを取り付けた場合のほうが、水分子が小さくなっていることがわかりました。
水分子の塊の状態が味に影響を与えることが知られていますので、水分子のサイズの変化は味に影響を与えることが十分に考えられます。
(2)酵母がより活発になる
2つ目は、ワインの発酵を進める酵母菌の働きが活発になり、発酵がより早く進むことです。この実験では1日置きにワインの温度と糖度が測定されました。その結果、ボディソニックを取り付けた場合の方が5日後の糖度が低く、温度が高い傾向にありました。また、発酵にかかる時間も2日間短縮されました。
糖度の低さは、酵母が糖からアルコールを生成する発酵の反応がより進んでいること、温度の高さは酵母の活動が活発であることを示していると言えます。水分子が小さくなることによって水分子間の空気が減ることが、酵母の活発さにも影響したものだと考えられています。
(3)分子レベルで熟成状態に近づく
3つ目は、ワイン中の水分子とアルコール分子の状態が熟成の状態に近づくことです。熟成前のお酒は、水分子とアルコール分子がばらばらで存在していて、分子のサイズも大きいといいます。しかし、振動を与えることで水分子やアルコール分子の塊が小さくなるほか、アルコール分子を水分子が包み込んだような状態となります。
これは熟成後の状態に類似しており、アルコール分子が水分子に包まれることで、アルコールのツンとした臭いが軽減され、まろやかな味わいにつながります。
このように、音楽を振動に変換するという条件で音楽を聴かせた場合は、ワインの味が変化することがありうるようです。ボディソニックは樽に取り付けるだけでなく、ワインボトル自体に取り付けるような使い方もあります。
また発酵に影響があるのであれば、醤油や味噌など別の発酵食品にも使える可能性もあるかもしれません。ボディソニックによる味の違い、機会があればぜひ味わってみたいですね!
参考:
音楽振動の酒類への利用