ホウレンソウのゴマ和えを化学的に分析してみる
寒い時期に甘みを増すホウレンソウ。暦の上では春に入ったので、そろそろ旬が終わってしまいます。一年中スーパーで手に入るとはいえ旬が名残惜しい筆者は、今夜ホウレンソウのゴマ和えを食べようと思います。
そう、ホウレンソウといえばゴマ和え。王道の食べ方ですよね。そんな身近な料理が実は高校の化学にもつながるんです。今回は、高校化学で習う沈殿反応のひとつ、シュウ酸カルシウム生成と、ホウレンソウのゴマ和えについてのお話をご紹介します。
ホウレンソウに含まれるアク成分「シュウ酸」は結石の原因物質?
シュウ酸は、ホウレンソウに多く含まれる化学成分。いわゆる「えぐ味」の原因となるアクの一種ですね。生のホウレンソウに含まれるシュウ酸の含有量は、文部科学省が公開している食品成分データベース[※1]のランキングによると、堂々の(?)第1位です。
シュウ酸そのものは水溶性ですが、カルシウムと結びつくと固体になるという性質があります。化学的にいえば、シュウ酸とカルシウムイオンは沈殿反応を起こすのです。沈殿反応とは、水に溶けにくい物質が固体になって出てくる現象。このシュウ酸カルシウムの生成反応が尿内で起きたものがいわゆる結石。激痛を伴うことで有名ですよね。
ホウレンソウにはえぐ味と結石の原因物質が多量に含まれているなんて…。いや、でもそんなホウレンソウを弁護いたしますと、鉄分やβ-カロテン、ビタミンCなどが豊富で、実に優秀な野菜なのです。またゆでて水にさらすことで、シュウ酸を2割~6割ほど減らすことも可能[※2]。とはいえホウレンソウを食べるときは、なるべくシュウ酸を体内に取り込まないようにした方がよさそうです。
ホウレンソウとゴマはベストパートナー!
一方ゴマは、カルシウムがとても豊富な食品です。その実力は、食品成分データベース[※1]のカルシウム含有量トップ20に入るほど。
では、ホウレンソウとゴマが出会うとどうなるのでしょう。ホウレンソウのシュウ酸とゴマのカルシウムが結びついて、シュウ酸カルシウムになります。「あれ?結石の原因物質を食べることになるのでは」と心配になったかもしれません。
でもご安心ください。結石は、すでに体内に吸収されたシュウ酸が尿の中でカルシウムと結びついてできるものです。これに対しホウレンソウのゴマ和えを食べたときには、腸の中でシュウ酸カルシウムの沈殿反応が起こります。こうしてできたシュウ酸カルシウムは、水に溶けにくいため腸管から吸収されず、便として排出されます。つまり、ホウレンソウとゴマを一緒に食べることによってシュウ酸が体内に吸収されにくくなるのです。
ホウレンソウのゴマ和えは、化学的に見ても非常に合理的な食べ方だということがおわかりいただけたでしょうか。定番の料理には、思いもよらないサイエンスが隠されていたようです。
とはいえ、私たちの身体はとても複雑なので、ホウレンソウをゴマ和えにして食べていれば必ずしも結石にならないというわけではありません。その点だけ、あしからずご了承ください。
参考:
※1 食品データベース(文部科学省)
※2 ゆで水量の違いがホウレンソウの食味やシュウ酸ならびにカリウム含量に及ぼす影響