生パスタと乾燥パスタの食感
「もちもち生パスタ」…外食ランチでメニューを選ぶとき、こんな文字があったら心惹かれませんか?
生パスタの魅力はなんといってもあのもちもちとした食感。ちなみに株式会社B・M・FTが報告した「おいしいを感じる言葉」では2015年の1位が”もちもち”になっています。それほど”もちもち”は多くの人を魅了するワードなのです。
対して乾燥パスタはイタリア語で「アルデンテ」と言われる、中心部に歯ごたえがある状態が魅力。
同じパスタのくせに、食感が異なるこのふたつ。この差はいったいなんなのか?そして、生パスタはなぜああも”もちもち”しているのか?
それらの解明として、今回は株式会社日清製粉グループ本社 R&D・品質保証本部 基礎研究所が実施した実験の結果をご紹介します。
生パスタと乾燥パスタの製法の違い
「そんなの知ってるわ!」という声も聞こえてきそうですが、そもそもこの2つは製法が違います。
生パスタは製麺後に乾燥することなく茹でられます。生地を高圧で押し出し、ところてん式に細く成型する「押し出し式生パスタ」と、そばやうどんなどの製麺方法と同様、生地をシート状にして包丁でカットする、「ロール式生パスタ」2種類の方法があります。降圧がかけられる「押し出し式生パスタ」のほうが「ロール式生パスタ」に比べ少し硬めの食感になっています。
乾燥パスタはデュラムセモリナという小麦をあらびきした粉に水を加え、高圧で押し出した後、高温で乾燥させて作られます。
もうみなさんお気づきのことかもしれません。生パスタと乾燥パスタの食感の違いも、生パスタの”もちもち”の秘密も、ズバリこの「乾燥」にあったのです。
生パスタ、乾燥パスタ、冷凍パスタの含水量と物性測定
では、実験の内容を見てみましょう。
使用されたのは直径1.7mmのロングパスタ形状の生パスタ、乾燥パスタ、冷凍パスタの3種類。
製法および加熱条件は以下のとおりです。
A. 生パスタ:デュラムセモリナ100重量部に対し27重量部の水を加え混合し、製麺機で押し出し作製した麺。ゆで時間は6分。
B. 乾燥パスタ:Aの生パスタを乾燥させた麺。ゆで時間9分。
C. 冷凍パスタ:Bの乾燥パスタを7分30秒ゆでたのち、-40°Cの急速凍結機で冷凍。これをゆで時間1分で解凍したもの。
まず測定されたのは水分量。MRI装置を使った各パスタの麺断面の横緩和時間(T2)の画像と、中央水平線上における水分量の図がこちら。
B. 乾燥パスタとC. 冷凍パスタのパスタは中心地点は0%と水分が検出されず、外側にかけて水分量が急激に上昇しています。対してA. 生パスタにおいては中心部にも水分が残っています。
これは生パスタに乾燥の工程がないために、製麺時に加えた水分が中心部に残留しているからとされています。
次に、食感やテクスチャーを定量的に評価するための物性測定が実施されました。
上が生パスタと冷凍パスタの比較、下が生パスタと乾燥パスタの比較です。乾燥パスタも冷凍パスタも、生パスタと比較すると、麺表面から1mm付近で、生パスタより荷重が高い数値になっています。
これを水分量の図と照らし合わせると、乾燥パスタと冷凍パスタの1mm付近というのは、ちょうど麺の中心部、水分量が低い箇所に該当します。乾燥パスタや冷凍パスタでは、この部分が「アルデンテ」の食感を感じている箇所。生パスタにアルデンテがないのは、中心部でも含水しているからだったのです。
また、生パスタは破断による最大荷重前のkgf数値が乾燥パスタや冷凍パスタのよりも下回っているものの、破断直前には荷重が急激に上昇しています。この部分が生パスタ特有の粘性となるようです。
粘性のもとであるでんぷんは水と熱で糊化することも加味すると、生パスタの”もちもち”は中心部にも水分が含まれているため、ということになりますね!
ここまで麺の食感を変えてしまう水分さん。「【衝撃】ブロッコリーの栄養分はゆでるだけでこれだけ損失される」でも調理時の水分量による栄養の変動がありました。水分さんは料理界におけるドラ◯もんのような存在と言えるかもしれません(適当です)。
乾燥パスタと生パスタの違いや”もちもち”の秘密は明らかになりましたが、実はこの実験には続きがあります。なんと、同じようにもちもちしている麺…うどんと生パスタも比較されていたのです。確かにうどんを細く切ったら、食感は生パスタに近くなるような気がしなくもない!
この記事が好評だったら次回は、うどんと生パスタの比較について見ていきたいと思います。