現代人に不足している栄養素のひとつとして、問題視されている鉄分。鉄分不足というと、貧血症状を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?
しかし、普段からめまいなどはっきりとした症状を普段感じていないでも、慢性的な鉄分不足に陥っている可能性があるんです。
その原因として考えられるのが、日本人の食生活の欧米化。高たんぱく・高脂質な肉食やパンやパスタといった小麦中心の食生活は、食事からの鉄分摂取量が大きく減少してしまいます。
鉄不足が招く不調や疾患を解決するためには、伝統的な日本食の知恵を取り入れて、日常的にしっかりと鉄分を摂ることが大切です。
日本人の鉄不足は現代病の原因に
理想的な一日の鉄分摂取量は、男性で10mg、生理のある女性は15mgとされていますが、厚生労働省の調査によると、60歳以下の男女ともに7mg前後と、かなり不足しているのが現状です[*1]。
鉄は、赤血球に含まれるヘモグロビンの合成に不可欠な成分。皮膚や粘膜組織の生成や細胞の代謝にも必要なので、慢性的な鉄不足は大げさに言えば生命をすり減らしている状態……と言えるかもしれません[*2]。
鉄が不足すると、「なんとなくだるい、活力が湧かない、集中力がない(続かない)、眠い」といった症状の他に、いらいらする、異食症(やたら氷を食べたがるなど)といった神経や精神に関わる症状が出ることも[*3]。
現代人に、うつ病など精神疾患が増加していることに関しても、慢性的な鉄不足と関連がある可能性があると言われています[*4]。
日本食は鉄分を効率的に摂取できる知恵の宝庫
鉄分というとレバーのイメージがあるように、赤身肉などの動物性食材にも多くの鉄が含まれています。これらの動物性食材に含まれる「ヘム鉄」と、植物性食材に含まれる「非ヘム鉄」には、体内への吸収に違いがあります。
伝統的な日本食では、野菜、穀物、豆、海藻が多く食卓に登場していました。これらは非ヘム鉄だけでなく、様々なミネラル成分をバランスよく含んでいる食材です。
非ヘム鉄はヘム鉄に比べて吸収率が低いことから、貧血防止や鉄不足解消のためには、吸収率の高い動物性食材(=ヘム鉄)を摂取することが勧められます[*5]。
しかし、伝統的な日本食メニューでは、レバーのような動物性食材はあまり使われていませんよね。にも関わらず鉄不足に陥らなかったのは、日本食独自の食べ合わせにあったんです。
昔から野菜や海藻、未精製の穀物が中心の日本食では、ほうれんそうやひじきなどの非ヘム鉄を多く含む食材も、他の野菜などに含まれるビタミンCや植物性たんぱく質を一緒に摂取することで、非ヘム鉄の吸収率がアップしています[*2,6]。
また、調理器具も鉄鍋や鉄瓶が使用されていたため、食事へのさらなる鉄分補給が実現していたというわけ。
日本食には、鉄だけでなく、様々な栄養素をバランスよく、かつ効率的に摂取・吸収できる知恵がたくさん詰まっています。
忙しい毎日を送っていると、ついつい外食やパスタやサンドイッチといった手軽な食事で済ませてしまいがちになりますが、いつまでも元気ハツラツでいるためにも、ぜひ日本食メニューを献立に取り入れ、鉄不足を解消しましょう!
参考:
*1 厚生労働省『平成28年度 国民健康・栄養調査結果の概要』
*2 松田晃(国際医療センター造血器腫瘍科)『鉄と貧血』
*3 小阪昌明(きたじま田岡病院内科)『わが国における鉄欠乏、鉄欠乏性女性の増加と栄養』
*4 Seyyed Gholamreza他『Relationship between severity of depression symptoms and iron deficiency anemia in women with major depressive disorder』
*5 ILS㈱ 「ヘム鉄」
*6 簡単!栄養andカロリー計算「鉄分」
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