ひじきの本当の物語、聞いてくれますか?
こんにちは。わたし、ひじきです。あ、そんなガッカリしなくても。わかってます。例の「ひじきの鉄分ががっかりするほど少なかった」件ですよね。
でもちょっと待ってください。何だかみなさん誤解されているみたいなんです。今回はわたしの本当の姿を知ってもらうためにお話します。
ひじきの喪失と回復の物語……そう、はじまりは2015年のクリスマスでした……。
涙のクリスマス―王位から追われたあの日
特にクリスマスの予定もないわたしに届いた日経新聞のニュースはショッキングな見出しからはじまっていました。『ヒジキ「鉄分の王様」陥落 食品成分表、5年ぶり改訂』……。
とんだXmasプレゼントでした。内容は、文部科学省が5年ぶりに改訂した日本食品標準成分表[※1]に掲載のひじきに含まれる鉄分が、55mg/100gから6.2mg/100gに大幅減となったというもの。
わたしが王位を追われた原因は鉄鍋でした。ひじきの加工に使う鍋が鉄からステンレスに変わったことでわたしの鉄分が減った……つまりひじきの鉄分は鉄鍋からもらっていたものだったというのです。
「だまされた」「体にいいと思って食べてたのに」……心ない罵詈雑言を浴びたあの日のことは今でも忘れられません。「明日からは一般海藻として生きるのだわ」。わたしはこうして王宮を去ったのです。
ご存知ですか?国産じゃないひじきの鉄分のこと
王位を追われたわたしは失意の日々を過ごしながらも、古代から日本人の食卓を彩り続けてきた……そんなプライドを捨てきれずにいました。
あるとき、ふと思いついて自分がどう思われているかインターネットで調べてみました。エゴサーチっていうんでしょうか。
すると……「ひじき、鉄分ナシ」「ひじき、大嘘」。驚きました。わたしの鉄分は6.2mg/100gあります。鉄分で皆さんがすぐ連想されるレバー(豚・生)が13mg/100g、海藻類でよく食べられている焼き海苔で11.4mg/100g。わたしの鉄分6.2mg/100gはそんなに少ないというわけではないのに……。
打ちのめされたわたしの脳裡に浮かんだのが外国産のひじきのことでした。今、日本国内に流通しているひじきは全部で約6千トン。そのうち国産は約1千トンで、あとの5千トンは韓国産と中国産です[※2]。
日本食品標準成分表掲載のひじきは国産のもの。国産ひじきは天然物で外国産ひじきのほとんどは養殖物という違いがあります。そして韓国産の鉄分は47.6mg/100g、中国産の鉄分は47.7mg/100g![※3]もちろんステンレス鍋で加工されています。
流通量から考えるとみなさんが普段口にしているひじきの鉄分は「大幅減」してなどいなかったんです!
ひじきの成分は鉄分だけじゃない!
わたし、何だか元気が出てきました。そうだ。ゲーテも言っていたじゃない。「名誉を挽回すれば、世の人は見直してくれるであろう[※4]」って。
名誉挽回のために申し上げます。わたし、カルシウムが1000mg/100gあります!牛乳が110mg/100gですからこれは自慢していいですよね。
それだけじゃありません。カルシウムの吸収に欠かせないマグネシウムは640mg/100gあります。カルシウム吸収のために理想的なマグネシウムの量はカルシウムの約半分。十分な量なんですよ![※5]
そして食物繊維は52mg/100gで堂々のベストテン入りです。これでひじきの名誉を回復できると思うのですがいかがでしょう?
王位を追われてからも、皆さんがひじきをおいしく食べてくれていることを知っていました。「おいしいんだからいいじゃない」と声をかけてくださる方も多くいました。本当のわたしを知っていただいてありがとう。これからもどうぞよろしく。
参考:
※1 文部科学省 「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」
※2 日本ひじき協議会 「ひじきQ&A」
※3 日本ひじき協議会「ひじきの鉄分について」
※4 高橋健二編訳『ゲーテ格言集』(1952.6、新潮文庫)
※5 文部科学省「話題の食品成分の科学情報 マグネシウム解説」
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