おふくろの味=家庭で慣れ親しんだ味
「おふくろの味」といえば美味しい味の代表格ですが、これは端的に言ってしまえば慣れ親しんだ味のことだと考えられます。
食べ慣れた味を「美味しい」と感じるのはもちろんですが、摂取した味が「美味しい」か「まずい」かの判断を下すのは記憶や感覚をつかさどる扁桃体という部分。ごはんを食べるシチュエーションにおいて家族との良い思い出やエピソードが残っていることも「おふくろの味」が美味しくなる要因のひとつかもしれません。
こう考えていくと、育った家庭での味付けこそが最強なのではないか…と思いますが、実はそうでもないようです。
家庭の味付けは嗜好に影響する?
同じ料理でも家庭によって味付けが異なることは珍しくありません。簡単な例ですが筆者の場合は目玉焼きにはケチャップをかけます。これは幼いころ目玉焼きとともにケチャップが食卓に置かれていたからで、味覚センサーレオによる相性度の分析が残念な結果であったとしても、これは譲れません。
味噌汁を使った調査によると、家庭の味噌汁の塩分濃度が塩味をどれだけ好むようになるかに影響を与えるという結果が出ています。家族みんなで同じ味付けのご飯を日常的に食べることで、その家族の味覚的嗜好が似てくるというのは想像に難くありませんよね。
実際に他のご家庭に伺った際、特定の料理や調味料を好むことから「この家族、好きな食べ物が似ているなあ」と感じたことがある方もいらっしゃることでしょう。
しかし、かといって必ずしも家族間で味覚が似ているというわけではないようです。
親子間で味覚の嗜好は一致しない?
大学生の子がいる家族69組、277名を対象とした研究では、薄味・甘い味・塩辛い味・濃い味の4種類に味付けしたひじき煮を使って、家族の味覚嗜好の類似性などについて検討が行われました。
結果、親子で同じひじき煮を選んだ割合は49.0%。他人同士の算出された一致率31.9%よりは高いものの、一致・不一致の割合は半々程度。約半数の親子では「美味しい」と感じる味が異なっていたのです。
この原因として一般的に考えられるのは成長とともに苦い味を好むようになるなどの変化や加齢・生活習慣病などに対する健康意識の違いですが、今回の研究によるとこれらは親子間の嗜好の不一致に関連しないという結果が出ています。
味覚の感度や嗜好には、外食を繰り返すことでしょっぱい味を好むようになったり、ストレスによって味覚力が弱くなるなど様々な要因があります。長らく「おふくろの味」を食べていなければいつの間にかどんな味だったかを忘れてしまうこともあるでしょうし、自炊や結婚による環境変化などでも「好きな味」は変わっていくことが予想されます。
もしかすると「おふくろの味」というのは、味そのものではなく「家族でご飯を食べた良い思い出」の側面が強いのかもしれませんね。