そのままはもちろんのこと、食事を合わせることでその料理の美味しさが高まったり、味わいが広がるなどさまざまな効果が現れるお酒。そんな食事とお酒の相性ですが、「日本酒には刺身」、「ワインには洋食」、「ウイスキーにはナッツ」など、我々の祖先の頃からの経験則として今も言い伝えられています。しかし、このお酒の相性を科学的な側面から見てみると、思わぬ発見もありそう。今回は味覚以外の科学的な側面から見た、各種お酒と料理の相性を見ていきましょう。
日本酒
豊富なアミノ酸を利用しよう
日本酒が魚介類に合う、といわれている一つの理由は、「魚介類の生臭みを美味しさでマスキングする」という効果です。まず、魚介類の臭みの要因はトリメチルアミンというアミン類であることがわかっています。
魚に含まれているトリメチルアミンオキシドが、時間が立つと細菌に分解されてアルカリ性のトリメチルアミンとなり、これが魚特有の生臭さとなります。まず、日本酒は有機酸が豊富に含まれており、これらは酸性である故にアルカリ性のトリメチルアミンと合わせることで、中和されます。
さらに、カツオなどをはじめとした各種魚には筋肉にうまみ成分のイノシン酸が含まれており、アミノ酸が豊富な日本酒を合わせることで、旨味がより膨らむわけです。
発酵食品と相性が良い
日本酒は、乳酸も豊富に含むお酒です。特に、人間の手で醪から乳酸を生み出す「生酛造り」と呼ばれる伝統的な製法などもあるなど、立派な発酵食品としての一面を持っています。これに、豊富なアミノ酸、有機酸を含んでいるため本来なかなか他酒類とは合いにくい、なれ鮨や塩辛、味噌、醤油などと相性が良いのです。
また、熱燗など日本酒を“お燗”することで、アルコールや香りの成分が揮発してしまうのですが、その分旨味、アミノ酸量が増加します。塩辛く、生臭い食事は熱燗をした日本酒を合わせれば、それらの臭みはマスキングされ、旨味が増大するのです。
また、貝類に含まれているコハク酸、アミノ酸にも負けない強い性格があることもポイントです。やや生臭いもの、イノシン酸が豊富な食事には日本酒がぴったりなのです。
ワイン
タンニンと香りで合わせる
「赤ワインには肉」と言われる理由のひとつに、ワインに含まれるポリフェノールの一種タンニンがあります。肉を口に含んだ時、ワインの持つタンニンが肉自体の持つ化学物質と反応して、肉を柔らかくする効果があるとされています。
また、赤ワインのほとんどは樽熟成が行われており、ラクトンという香り成分が含まれます。肉類にはこのラクトンが同様に含まれていることから、香りのバランスも良いということが言われているのです。
白ワインの場合は?
ワインの場合、赤や白といった原料となるブドウ品種の違いによって種類がわかれます。一般的に白ワインは酸度が赤ワインより高いですよね。また、香りの成分にはカプロン酸エチル、カプリン酸エチル、酢酸エチルなどのエステル類が豊富に含まれているため、フルーツや花様の香りを楽しむことができます。
例えば魚のソース。ホワイトクリームなどはナッツ系の香りを持つ樽熟成を経た白ワイン、レモンソースを使用したクリームにはクエン酸やエステル類が豊富なフレッシュな白ワインなど、香りの性質を似せると味わいやすいです
ちなみに、生ハムは熟成させている工程でカプロン酸エチルが発生するため、白ワインの方が合うことも。
ビール
塩味のある軽い食材
ビールは、麦芽とホップ、水が主体となってできている醸造酒です。最大の特徴は、ホップのルプロンによる苦みと、アルコール発酵によって生じる炭酸ガスによる喉越しの良さ。
ビールを飲むと、血液が薄められると同時に血液中のナトリウムが欠乏しがちに。そのため、ビールを飲んだときは自然と塩辛い食べ物を欲する傾向にあります。ポテトチップスをはじめ、ソーセージ、塩がまぶされた枝豆、サラミ、煎餅などが良い例ですね。
また、炭酸ガスの影響か腹が膨れるため、ボリュームのある食事はあまり摂取したいと思えなくなるようです。ビールを飲む際は、手軽に食べられる塩辛いスナック系がおすすめです。
ウイスキー
香り成分が豊富
ウイスキーは香り成分が豊富なので、合わせる料理はできるだけシンプルなものが良いと言われています。
アルコール度数の高さも関係しているのでしょうが、ウイスキーは樽で長年寝かせたり、原酒を多くブレンドするなどしているために、香り成分がかなり多く含まれています。
酢酸エステルを筆頭に、フルフラール、カプリン酸エステル、バルミトオレイン酸エステル、ラウリン酸エステルなど多岐にわたります。そのため、まず合わせる料理を選ぶ際には、あまりこの香りを邪魔しない、ナッツ類やチーズ、ドライフルーツが好まれるわけです。
例外的なウイスキーもある
ウイスキーの中でも特殊なのが、スコッチ・ウイスキー。ピートと呼ばれる泥炭が利用されており、海沿いの蒸留所で造られているため、土煙を思わせるスモーキーな香りを持ちます。
さらに、海の香りも少し含まれることから、炙ったスルメや鮭とばなど意外な料理との相性が抜群です。そのウイスキーの持つ、香りや原料に合わせて合わせるつまみを変化させるのも面白いでしょう。
昔の人たちは、長年の経験則からこういった酒と料理の相性を生み出してきました。科学的に見ると理にかなっている組み合わせも多いですが、まだまだ新しい発見が見つかる可能性は大いにあります。ぜひ、酒自体の科学的な特徴を知り、そこから導きだされる料理との相性をいくつも試されてみてはいかがでしょうか。
参考:
お酒と料理の相性の科学(バイオミディア)藤田 晃子 独立行政法人酒類総合研究所品質・安全性研究部門
料理に使う日本酒の効果 金子ひろみ
酒とつまみの科学 成瀬宇平
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