牛肉の牧場に潜入!かつべ種畜牧場がこだわる牛肉の美味しさの秘訣

牛の生産者にインタビューしてきた

あなたは自分が日々口にしている食べ物がどのようにして生産されているか、ご存知ですか?ひとえに「美味しい食べ物」といっても、そこには生産者の心血を注いだ、並々ならぬ苦労やストーリーが隠れていたりします。

今回は牛肉にフォーカスを当て、味博士自ら島根県は出雲市へ!先日の記事『処女牛VS熟女牛!美味しい牛肉はどっち?』で協力いただいた、かつべ種畜牧場さまにお話をうかがってきました。

生まれも育ちもかつべ。一貫した飼育を実施するかつべ種畜牧場

わあ、本当に来たんだね!

本当に来ました(笑)

なんで私(かつべ種畜牧

場)を見つけたの?うちに経産肥育牛がいることを知ってる人自体、結構珍しいんだよ〜

今回は「経産牛肉を味覚センサーレオで検証する」という企画だったので、経産牛を飼育されている牧場を探していました。その中でも飼育環境がよく、何より『産まれも育ちもかつべ(同じ土地)』を掲げられているところが魅力だと感じたんです。

右:かつべさん 左:味博士(メガネ・白衣は割愛させていただきました)

かつべ種畜牧場さんの『産まれも育ちもかつべ(同じ土地)』は、なぜ実施されているんですか?

味のブレをなくす、というところが大きいね。兵庫県の但馬牛の血液を引いた両親と鳥取県に由来する牛などがそうなんだけど…一般的に但馬牛がサシが入ってアブラ質(単に脂質という意味ではなく、その“味“も含めて)が良いと言われる。

ところが、但馬牛と他の県に由来する牛を掛け合わせた時に出る美味しさというのはブレがある。週に4〜6頭屠畜するんだけど、最後に骨を掃除した2〜3kgほどの脂の中に少し赤肉が出る。個体識別番号を見て、私たちはこれを食べて官能評価するわけだ。

同じ血統でも、順調に育った牛と、途中でお腹壊して食いどまったりしたことのある牛では違うかもしれない。個体差があるから、『どこの牛が美味しい』というのが一概には言えないんだよね

同じ環境で同じ餌を与えるこだわり

私のところがウケている要素のひとつでもあると思うんだけど、少なくとも同じ環境で同じ餌を与えてる。だから、あくまで以前よりではあるんだけど、人間の舌でわかるほど『良かった』『悪かった』ということが少ないと思う。

たしかに、某有名牛なんかはブレがあるかも…

ブランド牛というのはいろんな地域で、いろんな人がいろんな餌を使って、”名前”をただブランド名にしているからね。実は日本一有名な〇〇牛なんかはほとんど地元で生まれた牛はいないんだ。いろんな地域から仔牛を買ってきて、育ったのが〇〇牛。血液も違えば育った環境も違うから、どうしても味のブレが生じてしまう。そのため半年〜1年も長く肥育して肉質もアブラ質も良い肉に仕上げて出荷している。

でも、うちは生まれも育ちも同じ環境だから、その点『良いアブラ質で、ブレが少ない』って言ってもらえてるんだ。

ちなみに他にも『その地域で生まれてその地域で育った牛のブランド』自体はあるんですか?

そうだね、神戸牛は全部が兵庫県産。あそこはよその血液を入れていないから血が濃くなっていて。だから他のブランドの牛に比べて体の大きさが8割ぐらいになってしまっているけど、単価が高いから肉自体の販売価格は一緒っていう。

ただ、そういう努力をしている神戸牛でも、プロ中のプロからすると味のブレがあるそうなんだよね。なぜかというと、ひとりの人が飼ってないから。

なるほど。

土地、餌、育て方…全てにおいて一貫した飼育をすることによってやっと味のブレを少なくすことができるんだ。

そういう考え方が私の夢で、貫いてやってきたことが今身を結びかけている。ここへきて、ようやくそういうことを言ってくれる人に出会えたからね。だからこだわってやってきてよかったな。まあ、それが全てじゃないし、人によって味の好みもあるけどね。

食肉は霜降り具合だけで評価されるのが現状

かつべ種畜牧場さんの肉は、東京でもなかなかお目にかかれないらしいですね。

大都市の東京で月4〜5頭分の牛肉ではなかなか目に止まらないよね。今の食肉の取引は、『ビーフマーブリングスタンダード』という見た目の”霜降り具合”でランク付けして取引されているのが現状なんだ。

ただ、私ら牧場側は『それでいいのか?』って思う。味の売りがサシ、つまりアブラだけだと食べ飽きてしまうんだよね。初めて食べる人はそれでいいかもしれないけど、しょっちゅう食べる人からすると『見た目は霜降りでなくても美味しい牛』が取引形態になってほしい

そうですね。なんだかんだ、食べ続けたい肉というのは赤身の美味しさであったり、そういう基本部分かな、と思います

だから、かつべの牛は出荷先にこだわっている。お客さんが「この肉、美味しい!」と言ったときに、すぐ「かつべさんですよ」と名前を出してくれるようなところにしか流通させたくないのが正直なところ。作った牛全てをわかってもらいたいし、うちでもどこに行ったかわかりたいんだよね

牧場のそばには巨大な飼料が山積みに。牛さん用の機能食品まであるんです。

こういうことができるのは、おそらくうちだけだと思う。だから味博士さんの経産肥育牛の企画は『面白いところに目をつけてるな』と思ったよ

 

かつべ種畜牧場の牛たち

牧場には今、全部で何頭ぐらいの牛がいるんですか?

生まれたばっかりの牛からおばあちゃん牛まで合わせて…約600頭かな。

あと、北海道の牧場に親が30頭預けてあって、親が次々子どもを産んで、子牛だけ帰ってくるようにしてる。年に25〜27頭、8〜9割は生まれているよ。

生まれたての子牛…キュートです。

どうして親牛を北海道に預けるんですか?

理由は2つあるんだけど、1つめは限られた場所でこれ以上規模の拡大ができなかったから。今は子牛一頭が100万する。預け賃や諸経費払って返ってきてもお金は残るから、自分のところで人員や土地を割いて牛に狭苦しい思いをさせるよりも、きれいで広々としたところで飼育してもらったほうが牛にとっても良いんだよね。さっき言った味のブレ対策のために、できるだけ早いうちに引き上げることはしてる。

もう1つは、別の場所に預けることで特殊な血統の牛…まあ伝染病の牛とかが万が一出た場合に、遺伝子損失のリスクの分散ができるから。これも結構重要。

いろいろとメリットがあるんですね。東京からすると、ここも充分広々としてるんですけど(笑)
繁殖は基本的には、人工授精なのでしょうか?

99%はそう。あとは一度に卵をたくさん取って、ホルモンを打って雌牛の卵子を受精卵にして取り出して凍結保存・保管しておけば、何年たっても生殖することができる。人間の不妊治療では平成の頭頃までなかなか出来なかった技術だね。実は牛の世界では昭和の時代からあって。うちも講習を受けて資格を取り、やり出したのは平成2年からかな。

雌牛の牧場に取り付けられた分娩・発情監視通報システム、「モバイル牛温恵」

かつべ”種畜”牧場の意味

オスメスの掛け合わせは何か工夫されてるんですか?

近親交配にならないように、お互いにいいところを持った牛同士を掛け合わせているね

遺伝的に弱い牛が生まれたりとかは?

そういうこともあるね。両親が持ってなかったら基本的に出ないけど、苦労して作ったオスでも、今までなんともなかったのに突然、遺伝病が出てしまうこともある。遺伝病を持ってても出る確率は1/4とか1/5とかだから、遺伝病がわかった時点で、それをもたないメスと掛け合わせるんだ。ちなみに、うちは遺伝病を公表しているよ

交配の際、オスとメスでどっちを重要視していらっしゃいますか?

メスは普通10頭(受精卵移植で100頭オーバーも)ぐらいしか産まないけど、オスは極端な話5万頭でも産ませるから、みなさんこぞってオスを求めるんだけど…結局のところ、オスを産むのはお母さんだからね。私はどっちかっていうとオスの精液はお金を出せば手に入るけど、本当の秘めた能力を持ってるメスを集めたいと思ってるんだ

なるほど。これは僕の勝手な印象ですけど、結構『種牛で一攫千金!』みたいなのを狙っているところがあるなぁ〜と思っています

そういう人もいるかもね。ただ、今オスをやっているのは日本中で20人くらい。うちは私の父親の代からやってるけど、スーパーヒットするオスは本当はうちにいてもヒットはしない。スケールの大きい鹿児島へ行ったらヒットしたりね

たしかに、この牧場の特性からすると、メスを追い求める方が堅実なのかも…

かつべ”種畜”牧場という名前には意味があって。普通の牧場は生まれた仔牛を買ってきて肉牛にする。著名なブランド牛はだいたいそうだよね。神戸牛は県内産だけど…。

うちはちょっと違ってて、メスもかつべで、オスもかつべで、かつべのお父さん牛を使って生まれて、かつべでお肉になってできるだけお客さんの近くまで届ける。仲介業者もできるだけ少なくしてね。生まれも育ちも、お父さんもかつべというのが私の夢なんだよ

出産の回数分、角に年輪のようなものができるらしいです。

こだわりを突き詰めた結果生まれた”かつべ種畜牧場”の飼育システム。本当に美味しい牛を追い求めた、牧場主の真髄を見た気がします。かつべさんはまだ夢を追い続けている途中。これからもぜひ本当に美味しい牛肉を世のなかに生み出し続けてほしい、と思いました。

右:かつべさん 左:味博士 ペアルックじゃ…ないよ…!

貴重なお話ありがとうございました!

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