よく「煮物は冷める過程で味が染み込み美味しくなる」と言われます。実際にそうなのでしょうか。味覚センサーレオで検証してみましょう。
熱いままの肉 vs 冷ました肉 in 煮物
使った料理は牛肉の煮込み料理で、煮汁には醤油や砂糖が含まれています。煮込んだ牛肉熱いままのサンプルと少し温度を下げて40°Cくらいになったサンプルを比較実験しました。
分析結果は下の図です。熱いままの牛肉よりも40°Cくらいまで冷ました牛肉の方が甘味・旨味ともに味が強いことがわかります。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか。温度が体温に近づくと味の感じ方が強くなる(特に甘味・苦味・旨味)ということから、冷ますと体温に近くなるから強くなったのだという考え方もあります。しかし、それは本当でしょうか?それを確かめるには、調味料が溶けている煮汁と何も溶けていない湯で比較実験してみるとわかるので、次にその実験をしてみましょう。もし温度による効果だけであれば冷ますことで同じくらい旨味が上がるはずです。
肉 (in湯) vs 肉 (in 煮汁)
下の図が味覚センサーレオの分析結果なのですが、湯で肉を加熱して冷ましたデータと比較すると明らかに煮汁で似た方が旨味の跳ね上がり方が大きいことがわかります。つまり、確かに体温に近づくことで肉の旨味は感じやすくはなるが、それだけではないということです。煮汁には他にも旨味を跳ね上げる要因があるということになります。
そういうわけで、加熱によって細胞が壊れたところに煮汁の味が染み込んでいったと考えられるわけです。温度が低下して50~45°Cだと最も煮汁から肉への移動が起こると言われています。なので、急速に冷やして50~45°Cのゾーンをすぐに通過してしまうとあまり味は染み込みません。加熱した煮物を急に冷蔵庫に入れてしまうと、味の染み込みがあまり起こらないのです。味が染み込んでいくことを専門的には「調味料が食材内に拡散する」と言うのですが、温度が高い方が拡散速度が速いのです。では、ずっと加熱し続けるとどうなるか?難しい質問なのですが、加熱しすぎると食感が失われてしまい、形も崩れてしまうので、美味しくなくなってしまうので、特に肉の場合はたんぱく質の変性が起きない50~45°Cが最適とされています。
低温で味を染み込ませるというのは、ある意味”低温調理”とも言えるので、そことの関連を掘り下げたいと思います。
低温調理という新しい(?)流れ
現代では、低温調理が注目されています。特に肉に関しては、加熱しすぎてたんぱく質が収縮して硬くなり、ジューシーさが失われてしまうという考えが広まり、60~65°Cで長時間加熱することで柔らかくジューシーに仕上げることができるというわけです。しかじ、実は煮物で味を染み込ませる拡散については、昔から”低温調理”だったわけです。50~45°Cの温度で長時間味を染み込ませるのは理論的に正しくても実践は難しいですが、ベストの条件で揃えられれば、まだまだ新しい美味しさが発見できそうです。