秋の深まりとともに旬を迎える柿。晩秋から冬にかけては、日本の伝統的な風物詩でもある、甘くて美味しい「干し柿」も出回ります。
この干し柿、実は「渋柿」から作られていることをご存知ですか?
柿にはそのまま食べることができる「甘柿」と、そのままでは渋くて食べづらい「渋柿」があります。甘い干し柿のこと、「甘柿」から作られるのだろう……と思いきや、違うんです!
渋柿から作った干し柿はなぜ甘いのか
柿の渋味の原因は、水溶性のタンニンです。水溶性だけあって口に入れると唾液に溶け、強い渋味を感じます。一方、干し柿に含まれるタンニンは不溶性。唾液に溶けないので渋味を感じることなく、柿本来の甘さを感じることができるんです。
干し柿が甘くなるのは、渋柿の水溶性タンニンが不溶性に変化したため。このことを「渋抜き(脱渋)」といいます。
渋抜きの代表的な方法は乾燥ですが、アルコールやドライアイスを用いる方法もあります。乾燥によって渋抜きしたものが「干し柿」で、酒樽で渋抜きしたものが「樽柿(たるがき)」と呼ばれます。
「渋抜き」とはいっても渋が抜けたわけではない
渋抜きは水溶性のタンニンを不溶性に変化させることですが、もちろん不溶性のタンニンが水溶性に変化すれば渋味も戻ってしまいます。これを「渋戻り」といって、一般的には加熱によってこの現象が発生します。
しかし最近では、熱による渋戻りを起こりにくくする技術(復渋抑制)が確立されたこともあり、柿ジャムや柿ピューレといった加工食品が登場しています。
ちなみに、柿に含まれるタンニンはやっかいものというわけではありません。カキタンニンは防水・防腐効果があり、「柿渋」と呼ばれ様々なものに活用されてきました。
例えば漆塗りの器の下地、渋紙・和傘・団扇などの塗布剤、麻や木綿の染料(柿渋染め)、また食品分野では日本酒の清澄剤(濁りを取り除く)などです。昔の人々はカキタンニンの性質を上手に利用して、暮らしの中に取り入れてきたんですね。
ちなみに、「干し柿」の表面に白い粉のようなものがついていることがあります。これは「柿霜(しそう)」と呼ばれるもので、渋柿を乾燥するときに果肉内のブドウ糖が水分とともに滲み出て結晶化したもの。カビではないので、安心して食べられますよ!
参考:
農林水産省 柿の渋の抜き方を教えてください。
aff あふ 2018年10月号 特集「柿」 農林水産省
渋柿の新しい渋抜きおよび渋戻り抑制技術(福島県ハイテクプラザ 産学連携科)
鳥取県産業技術センター特許集(2016)
清澄剤柿渋の歴史的背景と清酒への応用
日本粉体工業技術協会 干し柿と柿霜(しそう)
JAみなみ信州 いちだ柿とは
農林水産省 地理的表示保護制度(GI)「市田柿」
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