肥満は多くの病気を招く要因といわれています。しかし、減量するのは決して簡単ではありませんよね。それに、無理な食事制限でストレスがたまると、脳が疲労してしまうこともあるんだとか。
そこで注目されているのが、時間内であれば比較的好きなものを食べていいという時間制限ダイエットです。
わたしたちの腹時計は胃の中の神経
お腹がグーッと鳴ると「腹時計が鳴っている」などと表現しますが、実際に、お腹にまで達する脳神経のひとつ「求心性迷走神経」は、体内時計として働きながら食べる量の調節をしています[*1]。
食べ物が入り消化活動で胃が反応したり、インスリンが分泌されたりすると「満腹信号」が求心性迷走神経によって脳に送られ、食べる行為をストップさせます[*2]。豪州・アデレード大学の研究(2013)によると、その満腹信号は、エネルギーを要する活動的な時間帯は働きを抑え、就寝時などの活動レベルが低下する時間帯は活発化するそう[*3]。
このように、通常であればカラダの活動量に応じて腹時計が時を刻んでくれます。しかし、高脂肪食で肥満になると、満腹信号が正常に働かなくなってしまう可能性が高いんだとか[*4]。そうなると、就寝時でもグーグーお腹が空いてしまいます。
食事時間制限でこわれた腹時計が治る?
そんななか、神経科学ジャーナル「JNeurosci」に掲載(2018年5月)されたアデレード大学の新しい研究では、食事時間の制限により、満腹信号を正せるという可能性が示されました。
標準食グループと高脂肪食グループにマウスを分け、TRF(time-restricted feeding)と呼ばれる食事法を実施したところ、とくに高脂肪食マウスにおいて満腹信号が失われないよう作用し、減量も大いに成功したそうです[*4]。
TRFは、一定の時間内だけ食事をとり、それ以外の時間は何も食べないという食事時間制限法です。
食事時間制限は健康面でも大きなメリットが
こうしたTRFによる減量効果は、いくつかの研究でヒトにおいても確認されており[*5]、2018年6月(Pub Medにて要約のみ)に公開された研究では、健康面での大きな効果も見出されています。
ペニントン・バイオメディカル・リサーチセンター、コロンブス州立大学、アラバマ大学などの研究者らは、糖尿病予備軍の被験者に体重が維持できるよう食事量を調節しながらTRFを実施しました。すると、インスリンの働きや酸化ストレス、血圧、空腹感などが改善したそうです [*6]。
つまり、TRFは体重減少に起因せず、根本的に健康面で大きなメリットがあるということ。減量に興味がなくても、健康を気づかうなら取り入れるべき食事方法だといえるでしょう。
TRF(食事時間制限)ダイエットのやり方と注意点
TRFでは、1日のうち12時間以内であれば、とくに制限することなく好きなものを食べることができます。時間帯も選べるそう。時間外は糖分が入っていない水分のみ摂取可能で、食べることはできません。断食時間は増えるほど効果が増すので、食物摂取は8~10時間以内がより理想的とのこと。[*7]。
なお、食事時間制限はダイエットに効果的で、健康上の利益も示されていますが、メインフィス大学の研究によると、たとえTRFを行っていても、高脂肪食を続けていればカラダの炎症を増加させる可能性があるとのこと[*8]。食事時間を制限しているから大丈夫と安心して、年がら年中脂っこいものを食すのは避けたほうがよさそうです。
とはいえ、この時間制限ダイエットを取り入れることにより、無理な食事制限のストレスからは解放されるはず。通常はバランスの良い普通食を楽しみ、たまには気兼ねなく脂っこいものを食べることも可能です。おいしく楽しくダイエットしてくださいね!
参考:
*1 求心性迷走神経:バイオキーワード集|実験医学online:羊土社
*2 [医学部] 末梢情報を脳に伝える求心性迷走神経における、満腹ホルモンインスリンと食欲ホルモングレリンの拮抗作用|2015年度|研究情報|お知らせ|自治医科大学
*3 Circadian Variation in Gastric Vagal Afferent Mechanosensitivity | Journal of Neuroscience
*4 Brain research finds new link between weight gain and meal times
*5 Time-Restricted Eating A Beginner’s Guide
*6 Early Time-Restricted Feeding Improves Insulin Sensitivity, Blood Pressure, and Oxidative Stress Even without Weight Loss in Men with Prediabetes.
*7 カロリーではなく時間を制限、「TRF」の減量効果 – WSJ
*8 Time-restricted feeding of a high fat diet in C57BL/6 male mice reduces adiposity, but does not protect against increased systemic inflammation.