ネコは甘味がわからない─けもフレの1シーンから話を広げてみた─

最近何かと話題のけものフレンズ。このアニメでは、けものが人間化しています。ところで、このアニメで気になる点が1点あります。それは、スナネコのおうちでサーバルとスナネコ、それに人間の主人公が同じものを食べて「おいしい」と言っていたこと。

サーバルやスナネコは味覚も人間化しているのか、人間化する前の味覚を残しているのかという点です。

今回はそれについて考えてみましょう。

ネコは甘味がわからない

実はネコは甘味を感じないと言われています[*1]。霊長類やげっ歯類など、動物ではT1R2という分子とT1R3という分子が結合して甘味受容体を形成していますが、ネコではT1R2分子を形成するための遺伝子が偽遺伝子化してしまっているようです。簡単に言えば、正常に機能しないんです。この結果、ネコは甘味を感じないというわけ。

今回参考にした論文では、イエネコの他、トラやチーターでも同じことが言えるとされています。ネコの系統樹で言うと、トラやチーターとイエネコはかなり離れた位置にいますから、イエネコ固有の現象ではなく、ネコ科動物は全般に甘味を感じない可能性が高いと言えるでしょう。

ちなみにサーバルちゃんはカラカルに近い仲間です。

ネコは苦味や酸味はわかる

ネコ科は食肉目ですが、食肉目にはイヌ、クマ、パンダなどもいます。クマはハチミツ好きのプーさんを思い出してもらえばわかるように甘味がわかります。イヌも普通に甘味がわかるようですね。

なぜ、ネコだけ甘味がわからないのか。

これは結局、ネコ科動物が純粋に肉しか食べて来なかったことが原因だと思われます。肉と言っても焼肉屋やステーキハウスに行くわけではなく生肉ですから、味は肉の味に決まっています。グルメな味の違いにこだわっていると生きていけないため食べられる肉であればよく、味へのこだわりはないのでしょう。

このため、味蕾の数もヒトの1/10の800個程度だと言われています。

腐った肉はダメなので酸味や苦味も感じるようですが、塩味にも鈍感です。草食動物は塩分を摂る必要がありますが、動物の肉や血には塩分が当然に含まれているので敢えて塩分の味を見分ける必要がないのですね。

なんだかちょっとかわいそうな気もします。

おまけ:パンダは旨味がわからない

T1R2分子とT1R3分子が結合したのが甘味受容体ですが、T1R1分子とT1R3分子が結合すると旨味受容体です。

実はこのT1R1分子に関わる遺伝子が偽遺伝子化してしまったのがパンダ。

パンダは1900万年前にホッキョククマと分かれていますが、700万年前に草食化しはじめたようです。これは竹やササが多かった棲息環境が原因なんでしょう。

そして、420万年前に旨味受容体の遺伝子が壊れてしまいました。肉を食べない以上、アミノ酸の味を認識する必要がないわけです。

200万年前には完全に草食化。ある意味、ネコ族とは全く逆の運命をたどったわけです。

(*2の文献から)

 

つまり、ジャイアントパンダちゃんは肉の味がわからないはずです。

肉の味がわからないとは言え、草食動物のように効率的に草の繊維を消化する消化器官はありません。このため、食べても食べても消化は進まず、年がら年中食べていなければならない宿命となりました。

 

甘味のわからないネコ族、肉の味のわからないジャイアントパンダ。それに比べるといろいろな味覚のある人間は幸せかもしれませんね。

*1:”Pseudogenization of a Sweet-Receptor Gene Accounts for Cats’ Indifference toward Sugar”
*2:”Pseudogenization of the Umami Taste Receptor Gene Tas1r1 in the Giant Panda Coincided with its Dietary Switch to Bamboo”

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