本来のちまきは「茅巻き」
「かしわ餅」の地域差の話題でご紹介した服部保・兵庫県立大学名誉教授らの研究[※1]では、「ちまき」についても調べられています。大正末期から昭和初期にかけて、日本全国でちまきを包むのに利用されていた植物は実に21種類。かしわ餅の17種類以上にバラエティに富んでいますね。
利用されていたのは、ササ類以外にススキやヨシ、マコモといったイネ科植物の葉が中心。タケ類の皮を利用したり、2種類の植物を利用したりする地域もありました。全体としては日本海側でササ類、南日本でススキなどを利用する傾向にあったようですが、現在ではササ類以外のもので包んだちまきにはなかなかお目にかかれませんね。
ちまきの由来は、中国の粽(ちまき)が日本に伝えられ、「茅巻き」に変わったものと考えられています。その名のとおり、本来はチガヤ(茅)の葉で巻いていたよう。平安時代の伊勢物語には茅巻きの記載があることから、非常に古くから食べられていたことがうかがえます。
ただ、チガヤの葉は細長くて餅を包みにくいため、ササ類のような広い葉のものが利用されるようになったのではないかと服部名誉教授らは考察。ササ類が少ない太平洋側では、身近にあるススキやヨシといったさまざまな植物が利用されたようです。
ちまきを包む葉と生物多様性の意外な関係?
ススキやヨシ、チガヤなどは、かつて人々が生活のためによく利用する植物でした。牛や馬の飼料、農地の肥料、そして茅葺き屋根の材料として欠かせない存在だったんです。これらの植物を利用するため、日本では人の手によって「茅場(かやば)」と呼ばれる草原が長い間維持されてきました。自然と人間が共生する「里地里山」の重要な構成要素ですね。
しかし日本人の生活スタイルの変化によって、こうした草原は放棄されたり開発されたりすることに。かつて日本の国土面積の約1割を占めていた草原は、1%以下にまで減少してしまっています[※5]。
里地里山には多様な動植物が生息しており、身近な種や希少な種が多いのも特徴。メダカが絶滅危惧種だというニュースを目にして驚いた方も多いでしょう。こうした希少種が集中する地域のうち、なんと57%が里地里山にあたります[※6]。特に草原には、植物をはじめ、チョウやバッタといった昆虫や鳥類など、多くの生きものが生息。草原を含めた里地里山は、生物多様性を保全する上で非常に重要な環境なんですね。
ちまきを包む葉のバラエティが失われたことと、日本の生物多様性が失われつつあることは、里地里山という身近な自然を利用しなくなったという共通点からどうやら無関係ではないようです。便利になった生活を元のスタイルに戻すわけにはいかないかもしれませんが、ちまきを食べながら里地里山の生きものにも思いをはせてみてくださいね。
参考:
※1 かしわもちとちまきを包む植物に関する植生学的研究
※2 Study on antioxidant activity of flavonoids from the leaves of quercus dentata
※3 Antimicrobial Effect of Ethanol Extracts of Quercus spp. against Foodborne Pathogens
※4 Antioxidant and antimicrobial activities of Smilax china L. leaf extracts
※5 日本の草地面積の変遷
※6 里地里山と生物多様性
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