かしわ餅を包む葉は「カシワ」とは限らない!
端午の節句に食べるものといえば、「かしわ餅」と「ちまき」。これらが何の葉で包まれているかはご存知ですか?
かしわ餅だったら当然「カシワ(柏)」でしょう、と思いがちですが……実はそうとは限らないんです。今回はかしわ餅とちまきを包む葉っぱについてお話します。
元祖かしわ餅は「サルトリイバラ」を利用!?
まずはかしわ餅から。兵庫県立大学の服部保名誉教授らの研究[※1]によると、大正末期から昭和初期にかけて、日本全国で「かしわ餅」を包むのに利用されていた植物はなんと17種類。カシワの他に、サルトリイバラ、ホオノキ、ミョウガ、コナラの葉などが用いられていました。
特に西日本ではサルトリイバラ、東日本ではカシワが利用される傾向にあり、現在でもサルトリイバラのかしわ餅を食べるという地域が多く残っています。関東生まれの筆者自身も、中国地方での自然観察会に参加した際に「これはサルトリイバラ。ほら、かしわ餅を包む葉ですよ」と紹介され、「カシワじゃないだと…!?」とカルチャーショックを受けた経験が。
かしわは「炊(かし)ぐ葉」に由来し、かつては炊事や食器に利用された葉の総称でした。身近な里山の植物を利用して餅を蒸したのがかしわ餅の原型だと考えられています。サルトリイバラもそんな里山の構成種。サルトリイバラ科(旧分類法ではユリ科)のつる植物で、その名のとおりサルを捕らえるようなトゲがあるのが特徴です。葉の香りがよいこともあって、古い時代から広く利用されたのでしょう。
一方、植物分類上の種としての「カシワ」はブナ科の落葉広葉樹。海岸林などに多く、里山であまり一般的に見られる種ではありません。ただし、春に新しい葉が芽吹くまで枯れ葉が枝についているという特徴があります。「カシワ」で包んだかしわ餅を端午の節句に供える風習は江戸の武家社会で始まったのですが、一説にはこうしたカシワの特徴を家系継続の象徴とみなしたからだといわれています。
香りづけだけじゃない!かしわ餅を包む葉の効能
かしわ餅の葉には、餅同士がくっつかないようにして食べやすくしたり、独特のよい香りをつけたりする効果がありますよね。しかし、葉の効能はそれだけではありません。
最近の研究で、カシワの葉に含まれるフラボノイド化合物にはビタミンCに匹敵するほど強い抗酸化作用があることがわかりました[※2]。また、カシワの抽出物には黄色ブドウ球菌といったグラム陽性菌に対する抗菌作用もあります[※3]。
一方のサルトリイバラは、根を薬用に利用することが多いようですが、こちらの葉の抽出物にも抗酸化作用と抗菌作用があることが明らかになりました[※4]。
地域の違いにかかわらず、かしわ餅はいわば天然の酸化防止剤・防腐剤を巻いているといえますね。とはいえ研究結果によるとO-157など一部の菌に対しては抗菌作用を示さないので、気温の上がるこの季節、食中毒には十分ご注意ください。
では次にちまきについて見てみましょう。