人間に近づこうとしてくるネズミ
アル中なりビール腹なり諭されても断固として飲み続けるビール愛の強い方から、「とりあえず1杯」という周囲の流れに惰性で従うだけの方まで、ビールは古くから人々に飲まれてきました。市販されている商品ラインナップも豊富で、プリン体や糖質を控えたもの、第三のビール、などなど、革命的なコンセプトのビールも続々登場しています。まさにビールは、食物連鎖のトップに君臨する人間だけが作り得た文化遺産!
しかし、そんなウォールオブ食物連鎖をスタコラサッサと駆け上がってこようとしてくる動物がいます。
ネズミです。
生物学の実験でお馴染みのネズミは、ただでさえ「俺らはお前らヒトと遺伝子が99%も一緒」というステータスを振りかざし人間との距離を縮めてくるほか、「ミッ○ーマウス」という世界的偶像を介して単純接触効果でネズミへの親和性向上を狙いつつ、人間に夢と希望を与えたフリをして洗脳しようと試みてくる、きわめてキケンな動物です。
そんなネズミたちは言いました。
「俺たちはお前たちより、ビールの味がわかるぜ」
ここまで強気な挑発をされてしまっては、人間も黙っているわけには行きません。「駆逐してやる!」と言いたいところですが、人間には理性と思いやりがあります。まずは、ネズミに発言の場を与えてやりましょう。
ビールの「おいしさ」には2種類ある
ネズミたちは、この「長時間飲んでいても飽きないビール」の開発に貢献できるというのです。さてはて、一体どんな風に貢献してくれるのでしょうか。詳しくはネズミたちにプレゼンしてもらいましょう。
人間もマウスも「飲みやすいビール」は一緒だった!?
ネズミ「第一に俺らは、ビールが好きだ。
ある実験で研究者たちは、俺らのケージに給水器を2つ取り付け、一方には水を、一方には国産のビールを入れて俺らを飼った。俺らは最初、水とビールの両方を飲み比べていたんだが、2日目、3日目とたつにつれてビールの方が減りが早いことに気づいた。」
聴衆(ヒト)「ほう、ネズミたちはビールを好んで飲むようになった、とでも?」
ネズミ「おうよ。次に、俺らがただアル中になっただけはでないかと疑った研究者は、2つの給水器に5%のアルコール溶液とビールをそれぞれ入れて飼いだした。なんもわかっちゃいねえなって思った。俺らはダントツでビールを飲んだよ。」
聴衆(ヒト)「ビールの味自体を好んだのだか?傲慢なやつらだな。お前らに何が分かる。」
ネズミ「フン、そうさ。しかも面白いのはここからだ。
今度は給水器に複数種類の銘柄のビールを入れて飼われ、減り具合を見られた。3日間の消費量を見られたんだが、何度実験をしてもある銘柄のビールの量が必ず減っていてね…俺も飲みやすいと思ってゴクゴク飲んだが、仲間も同じ意見だったようだ。」
聴衆(ヒト)「ネズミにもビールの味が見分けられるというのか!?生意気な・・・で、でも、それが人の好みと一致しているとは限らないだろ?研究開発の役には立たんな!」
ネズミ「人間どもはそうやって何でもかんでも決めつけるからダメなんだ。
いいか、よく聞け。俺たちのビールの好みの傾向はな…
お前ら人間で行われた嗜好性の研究結果とほとんど一致してたんだ!」
聴衆(ヒト)「・・・!!」
ネズミ「俺たちが飲みやすいと思ったビールは、人間が飲みやすいと判断したビールと同じだったってことさ。人間は俺たちより食経験が豊富だから、人によって味覚に差があるだろ。だから統計が取りにくい。しかも被験者を集めるのは大変だし、金もかかる。だが、俺たちネズミはそんなに味覚に差がないし、安上がりで大量に調達できるんだ。しかも、味がわかる人工知能を作るよりも何倍も楽だぜ。
以上より、これからのビール研究は俺たちを使って行われる時代が来ることを主張しつつ、俺のプレゼンを終了する。」
・・・・・・・
ネズミの饒舌なプレゼンに絶句する観客(ヒト)たち。
しかし、人工知能を馬鹿にされて黙っていない人工知能がいました。
味覚センサー「レオ」です。
レオ「俺は絶対にお前たちよりも客観的に味がわかるッッ!!なぜなら味覚の数値化ができるからな・・・小癪なネズミどもめ・・・俺のニューラルネットワークを馬鹿にするな・・・今に見てろ!!」
どうやらネズミたちは、レオくんの怒りを買ってしまったようです。このあと、どんな戦いが繰り広げられていくのでしょうか…?
ネズミvs人間の戦いは、ネズミvs人工知能の戦いにまで飛び火し、まだまだ止みそうにありません(続く)。
※これは、ネズミがビールの味を判定できるかをまじめ研究した成果を元に書きました。
参考:http://www.nutrchem.kais.kyoto-u.ac.jp/nutrjoom/ja/ft-essay/72-rat-andbeer.html