夏が近づくとバーベキューを楽しむ人が多くなります。外で仲間とワイワイおしゃべりしながら、お肉や野菜を焼いて食べると、より一層おいしく感じますよね。
そんな楽しいバーベキューですが、お肉を焼く際に発生する発がん性物質が、皮膚からもかなり吸収されるという研究が報告されました。
直火調理で発生する多環芳香族炭化水素(PAH)とは?
バーベキューなどの直火加熱調理の際、肉の油脂が網の下の熱源に落ちると、煙がもうもうと立ちますよね。実はこのとき、煙の中に発がん性物質として知られる多環芳香族炭化水素(以下PAH)が生成されているのだとか。肉ほどではありませんが、魚も同様です[*1]。
その発がん性物質を含む煙が食材を覆ってしまったり、油脂が熱源に落ちて肉や魚に引火したりすることで、食材自体にもPAHが生成するとのこと[*1] [*2]。PAHは呼吸器疾患や、DNAの突然変異を引き起こし得ると考えられています[*3]。
PAHは吸入よりも皮膚が重要な経路だった!
Environmental Science&Technologyに掲載された済南大学の研究では、バーベキューの際に生成される発がん物質PAHは、吸入するよりも、皮膚からの摂取がより重要な経路であると報告されています。
研究チームは実験参加者に野外バーベキューを行ってもらい、彼らの尿サンプルを分析しました。その結果、やはりPAHが最も多いのは「食事からの摂取」でしたが、その次に多かったのは煙を介した「吸入」ではなく、「皮膚からの摂取」だったのです。
研究者らによれば、煙の中の油が、PAHの皮膚取り込みを促進している可能性が高いとのこと。衣類で皮膚を隠して煙を避けても、その衣類が煙でいっぱいになってしまったら、結局は相当量のPAHを取り込んでしまうのだとか[*1] [*2]。
安全に、楽しくバーベキューを行うために
MDアンダーソンがんセンターの医療教育マネージャー、Sally Scroggs氏は、バーベキューにおけるPAH生成を抑えるために、「焼く前に脂身を取り除く」あるいは「低脂肪の肉を選ぶ」ことをすすめています[*1]。
また、農林水産省のPAH低減に関する研究開発によれば、「こまめに反転を繰り返し、食材への引火を防ぐこと」が有用とのこと[*2]。先述の実験を行った済南大学の研究らは、バーベキューを終えたらすぐにその場を離れ、煙臭くなった衣類を早々に洗うよう提案しています[*3]。
なお、PAHだけではなく、肉や魚を焦がしたり高温で焼きすぎたりすると、人間の遺伝子を傷つけ、胃がんや大腸がんのリスクを増大させ得る「複素環アミン(以下HCA)」が生成されるそう[*1]。
HCAを避けるには、「低温燃焼・グリル時間の短縮・焼きすぎない・焦がさない」ことを配慮し、HCAの生成を96%まで減らすという「マリネした肉を使用(酢、レモン汁、ハーブ類で漬け込む)」することなどが有用です。そして、ビタミンが豊富な野菜のバーベキューを増やせば、がん抑制にも役立つとのこと [*1]。
留意すべきことが多く面倒かもしれませんが、これからもずっとバーベキューを楽しむためには、何よりも健康であることが必要不可欠です。健康への悪影響に色々と気をつけなければならないことが多い世の中。好きで煙に突っ込んでいくような方はいらっしゃらないと思いますが、注意してくださいね!
参考:
*1 Keep Cancer Off the BBQ Grill MD Anderson Cancer Center
*2 和田俊(2016),「高温加熱により生成する多環芳香族炭化水素類(PAH)を低減する調理法の開発」,レギュラトリーサイエンス(RS) 新技術開発事業,公益財団法人日本食品油脂検査協会,神奈川県立保健福祉大学,農林水産省消費・安全局.
*3 Skin responsible for uptake of cancer-causing compounds during barbecuing than lungs
*4 Importance of Dermal Absorption of Polycyclic Aromatic Hydrocarbons Derived from Barbecue Fumes