初夏の代表的な味覚であり、「清流の女王」とも評されるアユ。『古事記』などにも登場するほど、日本ではなじみの深い魚です。柔らかな白身が楽しめる塩焼きは絶品ですよね。
昔から多くの日本人を虜にしてきた味覚であるアユを語る上で欠かせないのがその香り。アユは「香魚」とも書かれることがあるほど、特徴的な芳香をもつ魚なんです。あなたは、意識して食べていましたか?
アユのにおいは“キュウリ”みたい!?
新鮮な天然物のアユを食べたことのある方ならお分かりになるかと思いますが、品質の良いアユからは非常に特徴的な香りが漂います。「魚の生臭さ」というような香りではなく、まるで野菜や果物のような香りなのです。
「キュウリのにおい」や「スイカのにおい」、「若草のような香り」などと例えられる芳香をもつアユは、古くから多くの人を魅了してきました。簗(やな)や投網、友釣り、鵜飼いなど、さまざまな漁の方法が編み出され、養殖もおこなわれています。
しかし、養殖もののアユは天然ものよりも香りが薄いというのです。
「アユは食べたことあるけど、においなんて気づかなかった!」という方。そのアユは養殖ものだったのかもしれません。
食べたものによってアユの香りは変化する
アユの独特の香りは、摂食によって体内に取り入れた脂肪酸が代謝されることで生じることが分かっています[1*][*2]。そして、香りのもととなる餌が異なれば、香りの強さも変わってしまうのです。
もっともよい芳香が楽しめるのは、自然環境下で川底のコケ(藻類)をたくさん食べたアユ。人工飼料で育てた養殖のアユでは、天然アユのような香りを出すことは難しく、一般的に天然ものには劣るといわれます。そのため、近年では養殖アユに与える飼料にも藻類を混ぜ込み、天然アユに近い香りが出るよう工夫がされるようになってきました。
さらに、天然ものでも異なる川で育ったアユは、川ごとに異なるコケを食べているため、その香りが産地によって微妙に異なります[*3]。そして、同じ川でも、水のきれいな上流に生息していたアユは食べているコケの品質も良く、より良い香りを持つアユになるといわれているんです[*4]。
高地の四万十川や、岐阜の長良川などアユの名産地は全国にありますが、川によって異なる風味が楽しめるというのは驚きですね!
アユが捕れる川はいくつもありますが、「うちの川で取れたアユが一番うまい」と断言する人は少なくありません。今年アユを食べる機会があれば、ぜひ香りに注目してみましょう。日本各地の様々な川で捕れた天然アユや、養殖アユを食べ比べてみる旅も面白いかもしれませんよ!
参考:
*1 淡水魚の香気:平野敏行、章超樺(化学と生物,vol.31,No.7,426-428,1993)
*2 Identification of Volatile Compounds in Ayu Fish and Its Feeds:Toshiyuki Hirano et al.(Nippon Suisan Gakkaishi, 58(3),547-557,1992)
*3アユ | 食材図鑑
*4 鮎<あゆ> | 美食情報サイト – 美味食材|セコム