「美しいものには棘がある」同様、たまに言われる「美味しいものには毒がある」。もちろん、100%の真実ではありません。しかし、実はある種の毒キノコはまさにこれなんです。
毒キノコの毒成分は意外と知られていない
日本には5千種類ものキノコがあると言われています。そのうち食用キノコは何種類くらいだと思いますか?
答えはなんと百種類程度なのです。残りのすべてが毒キノコというわけでもありませんが、食べない方が無難なキノコ。明確に毒キノコと言われているのは数十種類です。
基本的に毒キノコを食べた際の症状としては、嘔吐や下痢といった消化器官の障害、大笑いをすることで有名なワライタケなど精神的な症状等があります。カエンタケは触れただけで皮膚炎を起こします。
それでは毒キノコの成分は相当研究されて解明されているのだろう……と思いきや、意外にわかっていないものが多いのです。
そんな中でも、毒キノコの成分としてよく知られているもののひとつがイボテン酸。これはもともと日本人の研究者が「イボテングダケ」から発見したので、この名前が付いています。毒キノコというと誰もが思い浮かべるベニテングダケ(赤い傘に白いボツボツが付いているやつ)の毒成分もイボテン酸です。
イボテン酸は実は美味しい?
イボテン酸はグルタミン酸に似た構造をしています。そのため、グルタミン酸が「はまる」ところにスポッとはまりやすいのです。
味博士でもよく出てくるように、人間が旨味を感じる成分のひとつがグルタミン酸です。これは味蕾の旨味受容体にグルタミン酸がはまって旨味を感じるからです。
と、いうことは?
そうです。イボテン酸も旨味受容体にスポッとはまるわけで、旨味になり得るわけです。しかも、イボテン酸はグルタミン酸よりも少量で効くのだそう。グルタミン酸よりもグルタミン酸受容体にはまりやすいんです。
つまり、イボテン酸は旨味調味料を強力にしたようなもの。とっても美味しいんですね。
しかしなぜ、毒なのか……。ここは意外に味覚の深いところと結びついています。
実は神経系では、グルタミン酸は興奮性神経伝達物質のひとつです。ひょっとすると、数あるアミノ酸の中で、霊長類がグルタミン酸を旨味と認識するのはこれと関係があるのかもしれません。
ともかく、グルタミン酸が神経伝達物質ということは、より強力なイボテン酸が外部から入って来ると神経系をかく乱するということになります。つまり、毒作用があるんですね。まさに美味しいが故の毒作用なのです。
なお、イボテン酸が美味しいかどうか、決して試してみようなどとは思わないでくださいね!
参考:林野庁「日本のきのこ」