聴く音によって食べ物の味は変わる?甘味・塩味の味覚閾値への影響

あなたは、聴く音楽によって感じる美味しさが変化した経験がありますか?味が変わったことはなくとも、旅行などで特定の音楽を聴きながら食べたご飯の味を、別のシチュエーションで同じ音楽を聴いたときに思い出したり、その逆のような経験はあるのではないでしょうか。

味を受容するのは舌ですが、美味しさを感じるのは脳ですから、聴覚と味覚も関連はするもの。今回は基本5味(甘味・旨味・酸味・苦味・塩味)のうち、甘味と塩味という2種類の味覚において、音および音楽が及ぼす影響を調べた実験[*]をご紹介します。

聴覚刺激による味覚への影響

研究では平均年齢22.5±2.0歳の健常有歯顎者22名に対して、2種類の実験が行われました。1種目は純音、2種目は音楽が甘味および塩味の味覚閾値にどのように影響を及ぼすかについて。さらに、音楽の嗜好が味覚の感受性に及ぼす影響についても検討されました。

純音による味覚閾値への影響

実験1の検知音は周波数10Hz、4,000Hz、20,000Hz、音圧は50dBに調節。また検査液は甘味としてスクロース、塩味として塩化ナトリウムをどちらも蒸留水で0.005M、0.010M、0.025M、0.050M、0.100Mに希釈したものが使われました。

ちなみに純音とは1つの周波数による音のこと。イメージ的には音叉の音です。

実験方法は目を閉じた状態で純音刺激を行う前、純音刺激を開始して15分経過直後に被験者に検査液を10ml、10秒間含んでもらい、味を申告してもらうというもの。その結果、純音刺激による味覚閾値の変化において、統計学的有意差は認められませんでした。

音楽による味覚への影響

実験2では音圧50±10dBに調節した、モーツァルト2種類、波の音や鳥のさえずりなど自然音が収録された1種類のCD計3種類が使われました。検査液は甘味としてスクロース、塩味として塩化ナトリウムをどちらも蒸留水で0.005M、0.010M、0.050M、0.100Mに希釈したものです。

実験方法は実験1と同様です。結果、甘味のスクロース0.100Mのみ、自然音のCDを聴いた際に甘味感受性が下がる結果となりました。これは、CDのリラックス効果が高かったことで覚醒レベルがやや低下、つまり眠くなってしまったことによるものと考えられています。

また音楽の嗜好による影響については、甘味のスクロース0.050M、0.100Mにおいて、モーツァルトを「好き」と回答した被験者の音楽効果度は「嫌い」と回答した被験者と比べて有意に大きい値を示しました。好きな音楽を聴くことで甘味を感じやすくなるという結果になったのです。

甘味は心理的要因の影響を受けやすい味覚であるという報告もあることから、好きな音楽を聴いてリラックス状態になったことがこうした結果につながったと考えられています。

なお、どちらも塩味との関連性は認められませんでした。

前述のとおり、甘味と心理的要因は結びついていると言われており、リラックスすると甘味の感受性は上がるようです。この結果を見ると、聴覚が美味しさに直結しているというより、聴覚刺激によって起こる心理状態の変化によって味覚の感受性に変化があるのかもしれません。

緊張すると唾液の分泌が少なくなる人が多いことから、味覚の感受性も下がりがち。ご飯はできるだけリラックスした状態で食べた方が美味しく感じることができるということですね。

参考:*聴覚刺激が味覚機能に及ぼす影響

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