教科書から消えた!?「味覚地図」と味覚の知識

消えた味覚地図の謎

あなたは「味覚地図」なるものを知っていますか?「見たことある」という方は多いかもしれませんが、確実に「知っている」と答えられるのはもしかしたら40代以上の方かもしれません。

味覚地図とは色分けや斜線、丸囲いなどでエリア分けがされた舌の図のこと。先端部分は甘味、前の方両サイドが塩味、奥の方両サイドが酸味、付け根に近い部分が苦味と分かれていて、それぞれの味を感じる(感じやすい)というものでした。

現在は亡き者にされていますが、以前は教科書にも載っていたほどポピュラーなものだったんです。

「味覚地図」は20世紀に生まれ20世紀に否定されていた!

「味覚地図」の起源は、1901年に発表されたドイツ人医師ヘーニック(Hänig)の論文だと言われています。

これをアメリカのハーバード大学の心理学者エドウィン・ボーリングが『実証心理学の歴史における感覚と知覚』(1942年に出版)で翻訳・引用し、一般に広まったというのが通説。

「味覚地図」は1990年頃には否定されているようですが、今から30年ほど前までは割と普通に信じられていました。一時はグラスやカップでもこの理論を応用した形の製品がつくられていたほど。

しかし今ネットで「味覚地図」と検索すると、むしろ「味覚地図は間違いだった」という記事が大半を占めています。

学校教育でも昭和時代は「味覚地図」を教えていたため、40代以上の人は今でもそれを信じているかもしれません。もし、あなたの知り合いが味覚地図を信じていたら、現時点ではそれは否定されていることを教えてあげてくださいね。

味覚と味蕾の関係の正しい現状認識はこれだ

しかし、なぜ味覚という身近なものに関しての間違いが1世紀近く気づかれなかったのでしょうか。

ハーバード大学の権威もあったのでしょうが、舌はエリアごとに複数の種類の舌乳頭(小突起)が分布していることも原因のひとつだと考えられます。

味覚地図の他にも、エリアごとではなく味蕾(みらい)ごとに分担する味覚が異なるという説や、反対に味蕾にはすべての味覚に対応する味細胞が存在するという説もありました。

なお、味蕾は味細胞を含む「蕾(つぼみ)」状の形の味覚器官。味を感じるセンサーです。舌上には1万個程度ありますが、分布は均一ではありません。

現時点の理解は、どの味蕾にも各味覚(甘味・旨味・苦味・塩味・酸味)専門に対応する味細胞が5種存在していて、各味細胞から情報が脳に送られているため、舌のどの部分でも5味は感じるということです。

ただし、それぞれの閾値が舌のどのエリアでも等しいとは限りません。また、ある種の錯覚が舌のエリアごとで感じやすい味覚に変化をもたらしている可能性もあります。

まだまだ完全に解明されていない舌の機能。単純に「味覚地図」を過去の遺物と否定するよりは、味覚の謎をより深く探索する方が面白いかもしれませんね!

参考:
Chandrashekar et al.  “The receptor and cells from mammalian taste”.  Nature 444, 288-294, 2006
日本人若年女性の舌部位別味覚感受性
五感とNNP

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