『逃げ恥』に登場したアイスワイン
ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)の7話に登場して話題になったカナダの“アイスワイン”。これは普通のワインとは製造方法が少し違い、自然に凍った成熟したブドウから取れる濃縮された果汁でつくられる“極甘口ワイン”です。
ブドウ1房からティースプーン1杯のワインしかつくることができないため非常に貴重。カナダの他にもドイツやオーストリアでもつくられているんですよ。
適度な酸味とはちみつのようなとろりとした濃厚な甘さが「極上なスイーツのようだ」と言われています。
極甘口ワインと言えば貴腐ワイン
極甘口のワインはアイスワインの他にも種類があります。なかでも有名なのが“貴腐ワイン”。
灰色かび病の菌が熟成したブドウにつくと、果皮のロウ質を壊すことで果汁の中の水分が蒸発します。すると、著しく糖度の高い乾ブドウのような状態に。これを原料としてつくられたのが貴腐ワインです。
フランスのソーテルヌ、ハンガリーのトカイ・アスー・エッセンシア、ドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼが「世界3大貴腐ワイン」と言われていますが、とくにトカイについてはルイ14世に「ワインの王にして王のワイン」だと言わしめたほど。
味わいはとろりとした、はちみつやメロンのような何とも気品ある風味と、こちらも濃厚な甘味が特徴的です。
極甘口ワインに合わせるなら同じく甘いスイーツ
そんな極甘口のワインは、実は食後に同じニュアンス(風味や味わい)があるスイーツと一緒にいただくとぴったりなんです!例えば、はちみつを使用したスイーツには、はちみつのニュアンスのある極甘口ワインがぴったり。
一般的にアイスワインや貴腐ワインはブルーチーズやフォアグラといった濃厚な旨味と塩味があるものと食べられることが多いですが、前述した食べ合わせの法則からフルーツを含んだチョコレートやアイスクリームなどのスイーツと一緒にいただくと、極上のマリアージュになると言われています。
食後の“甘い飲み物”で欧米風のひと時を。
日本人の感覚だと「スイーツにはコーヒーや紅茶でしょ?」と思いますよね。たしかに食後、スイーツをいただきながら苦味のあるコーヒーや紅茶で味覚を落ち着かせて、昂揚した精神を宥める…というのが一般的なディナーの流れ。
一方で欧米には食事の余韻を楽しむディジェスティフ(食後酒)の文化があります。これはあくまで食事というメインの後で改めてリフレッシュしながら、お酒とそれに合わせたスイーツやチーズなどで心ゆくまで楽しむというもの。特にイタリアでは食事よりもディジェスティフの時間のほうが長いくらいなんだとか。
まだまだ話が尽きずシーンの終わりが見えないときは、コーヒーではなくディジェスティフで。スイーツとお酒の食べ合わせは、よりハイクオリティな食事の時間を演出してくれます。
深い味わいによるマリアージュ
食文化や食事をするシーンの違いからだけでなく、味覚の観点からも極甘口ワインとスイーツが合うことの理由が見えてきます。
ワインには醸造、発酵の過程で旨味のもととなるコハク酸、酸味を感じさせる酢酸、リンゴ酸、乳酸などが生成されます。アイスワインや貴腐ワインの原料となるブドウは成熟しており、成熟したブドウほど苦味が強くなると言われています。また、アルコールも苦味のもと。貴腐ワインの場合は貴腐菌がグルコン酸を生成することで渋味(苦味)がプラスされます。
このことにより、甘味のあるスイーツに対して甘味だけではなく、酸味、旨味、苦味や香りなどの風味も重なって複雑な味わいに。さらに、スイーツと極甘口ワイン両方にある甘味と同じニュアンスが引き立てられ、それぞれを単体で食べたときよりもさらに美味しく感じられるマリアージュが成功しているのだと考えられます。
極甘口ワインはスイーツにぴったりですが、もちろんそのままで飲んでも癖になるほど美味しいんですよ。ぜひ一度、その濃厚で贅沢な味わいを楽しんでみてくださいね。
参考:
・『ワイン王国 2016年3月号』ワイン王国編集部
・「石田 博氏のテイスティングノート」
・サントリー「知られざる貴腐ワインの世界」