誰かといっしょに食べるごはんはおいしい?
ドラマ化もされた『いつかティファニーで朝食を』。言わずと知れた、主人公の佐藤麻里子がおいしい食を求めて東京都内を奔走する(?)漫画です。
2016年6月現在の既刊は9巻。登場人物の生活や環境も当初に比べだいぶ変化しましたが、やはり印象に残っているのは1巻の冒頭、7年付き合った彼氏に分かれを告げた佐藤麻里子が、気分転換にと友人を誘って朝食を食べるシーン。
この漫画において、一番心の琴線に触れてくるがこの「おいしい〜♡」なんです。このみんなで食べながらの「おいしい〜」が入るとおいしそうなごはんがありありと想像できます。そう、「おいしい〜」というセリフはもちろんのこと、「誰かと一緒に食べているシーン」が合わさることで、おいしそうな印象をさらに増加させてくるのです。
「誰かといっしょに食べるごはんはおいしい」ってよく聞きますよね。家族、友人、恋人…一人で食べるご飯よりも誰かと食べたほうがおいしいイメージがあります。この漫画でも誰かといっしょに「おいしい」と言っているシーンがおいしさを表す最高潮ではないでしょうか。
しかし、それはあくまでイメージ。実際はどうでしたか?自身の経験をよく思い出してみてください。
誰かといっしょにごはんを食べたところで、嫌いなものは嫌いだし、まずいものはまずい…そう感じたことはないでしょうか?
誰かといっしょに食事を摂っても、食品のおいしさ自体は上昇していないのではないかーーそんな研究結果が東北大学の坂井信之氏によって報告されていました。
「おいしくない」が「おいしい」に変わる?
この実験では2種類の植物刺激による味覚評定値を、友人と一緒に・ひとりで・知らない人といっしょに食べる3パターンの環境下にて評定を実施。
すると、「おいしさ」に対する評価は「友人と一緒に」が有意に低い結果となりました。「ひとりで」「知らない人といっしょに」では「知らない人といっしょに」がわずかに高いものの、ほぼ同じという結果。
この理由は、試食中の様子を撮影した際、ひとりで食べた場合の咀嚼回数が他の条件に比べて多いためとされています。友人と一緒に食べた場合はおしゃべりに夢中になってしまうあまり、味わって食べることができないのかもしれません。
しかし、興味深いことに「おいしい」という会話の同調は見られるようです。実験時のおいしさと実験から1ヶ月後のおいしさを比較すると、実験時いっしょに食べている人が「おいしい」と評価した場合、その場では同意しなかったにもかかわらず、1ヶ月後に再試食した際にはいっしょに食べた人が「おいしい」と評価したものを自分も「おいしい」と評価していたというのです。そう、1ヶ月の間に自分の「おいしい」の基準を、いっしょに食べた人の「おいしい」に同調させているんですね。
個人差はあるかもしれませんが、みんなで「おいしい」と言いながら食べたごはんが、たとえ自身の好みでなくとも「おいしかった思い出」になるのは会話の同調によるものかもしれません。
誰かといっしょにご飯を食べることとは
また、同実験において、知らない人同席のもと友人といっしょに試食を実施した結果、知らない人と一対一で食べたときよりもポジティブな感情が報告され、ネガティブ感情が抑制される傾向になることが示唆されています。さらに、試食後は試食前に比べ、知らない人への好感度も上昇していたのです。
友人とごはんを食べることは、おいしい評価自体を上昇させはしないものの、いっしょに食べた人への評価は上がるようです(実験外のシーンでは会話内容によるとは思いますが…)。
このことから本実験では、「誰かといっしょに食べること(共食)は、単純に”食卓を共にする”という物理的ことではなく、”一緒になにかを成し遂げる”という心理学的な事象」であることが示唆されたとしています。
誰かといっしょにごはんを食べることは、人が感じるおいしさを上昇させるものではありません。しかし、共に食事をすることで手っ取り早く仲良くなるためのコミュニケーションツールなのかもしれませんね。
※本記事はマンガHONZさんに寄稿した記事と同内容です。