こんな話を聞いたことはありませんか?
「冷たいと甘みを感じないから、アイスクリームには驚くほど大量の砂糖が入っている」
「料理は冷めると甘くなくなるから、砂糖は多めに」
一般的にヒトの舌は、体温と同じくらいの温度、人肌くらいで一番甘みを感じやすくなります。冷たすぎても甘すぎても、甘味は感じにくいんです。
でも、人肌くらいの温度より冷やした果物のほうが、甘みがはっきり感じられると思いませんか?冷えた果物のほうがおいしく感じるのは、どうしてでしょう。
温度が上がるほど、果糖の甘みは感じにくくなる
では、こんな経験はありませんか?
ホットコーヒーが苦いな、と思ったけれど、手元にあるのはアイスコーヒー用のガムシロップ。どうせ同じ甘味なんだからと思って、コーヒーカップに注いでみたけれど、いくらかき混ぜても、ちっとも甘くならない――どうして?
実は、市販のガムシロップは、砂糖とは違い、フルクトース(果糖)を主成分とするものがほとんどです。冷たい清涼飲料水も、主成分がスクロース(ショ糖)の砂糖でなく、果糖が用いられているものが大半。フルクトースの甘みは温度によって大きく変動します。5℃でスクロース(ショ糖)の約1.5倍も甘いのに対し、60℃では0.8倍の甘さしかありません。
果物の甘みの主成分はフルクトース(果糖)。冷たい方が甘く感じるのは、このためなんですね。
サツマイモはホッカホカで、甘く感じる
焼き芋の甘み成分の中心は、でんぷんがβ-アミラーゼという酵素で分解して生まれる麦芽糖、マルトースと、ショ糖のスクロース。フルクトースは非常に少ないのです。グラフの通り、ショ糖は温度によらず甘みが安定しており、マルトースも温度20℃以上ではほとんど甘味に変化がありません。
また、甘味を感じる刺激はTRPM5およびTRPM4という特定のたんぱく質を中継して脳に伝わりますが、同じ甘味であれば温度が高い方が甘味の刺激は強くなります。
味覚についての研究はまだ不明点が多く、わずかな遺伝子の違いによって、甘味の感受性は違うとも言われており、サツマイモの種類によっても糖の種類は異なります。
しかしたいていの場合、焼き芋はほくほくとほぐれやすく柔らかい状態の方が、甘くおいしく感じられるでしょう。
同じ「甘い」といっても、糖の種類によって甘味の感じ方は温度にずいぶん左右されます。
甘い物好き、だけど糖分を控えたいという人は、紅芋アイスと焼きりんごよりも、りんごシャーベットと焼き芋にした方が、少ない糖分で甘味をしっかり感じられるのでおすすめです。
糖の成分と温度の関係を意識しながら、できるだけ甘くおいしく食べましょう。
参考:
石川伸一『料理と科学のおいしい出会い』化学同人 (2014/6/10)
Jeff Potter, 水原 文『Cooking for Geeks 第2版 ―料理の科学と実践レシピ (Make: Japan Books』オライリージャパン; 第2版 (2016/12/24)
甘味の基礎知識 前橋健二『日本醸造協会誌』2011年 106巻 12号 p.818-825